L'art de croire             竹下節子ブログ

L'apocalypse

Arteで12回連続の初期キリスト教史のドキュメンタリー番組の最後を見た。

 フランス、ドイツ、イタリア、イギリス、アメリカ、イスラエルなどの歴史学者や文献学者や宗教学者らが次々に意見を述べるのがモザイク様に繰り出されて、非常に印象的だった。

 充分知っている内容が多いのだけど、こういう風に、いろんな立場の人がそれぞれ語るのを聞くと感慨が深い。カトリックとかプロテスタントとかユダヤ人とかいう立場も分かるので、知的誠実さのほかに感情がまじって、これは「心理的霊的仮説ですから・・」と断る人もいた。

 最後の回での、キリスト教による反ユダヤ主義の理由についての意見の時だ。

 ユダヤ人によるユダヤ人の宗教が、非ユダヤ人の間で爆発的に広まって、結局、最後まで改宗しなかったのはユダヤ人だけ、ということで、それがキリスト教のトラウマであり、パラドクスであり、アイデンティティの不安であると言うのだが、そうだなあ、と思うと同時に、私は日本人だから、インド人によるインド人の改革宗教だった釈迦の仏教も結局インドでは生き延びなかったけど、日本人らの仏教徒は別に「インド人に認めて欲しい」と密かに願ってるってことはないよなあ、と思ってしまう。民族の枠を超えてしまうのは普遍宗教の宿命だろうし。

 また、ローマ帝国の中で迫害されていた時は、堂々と「信教の自由」を主張していたキリスト教徒が、国教になってからはどうして手のひらを返したように信教の自由を認めなくなったのか、とか、質問の仕方が、ある意味素朴で、それゆえ、それぞれの専門家が「自分の言葉」で答えざるを得なくなっているのもよくできている。
 6世紀はじめに、「全員洗礼」の通達が出た時点で、アテネの学校も閉鎖され、思想が終焉した、それは同時に本当の意味でのキリスト教の終焉だったとする人もいる。

 一体、なんで、一介のローカル宗教がここまで巨大になったんだ、という素朴な疑問も出た。
 ローマ帝国が地方分権で中央官僚というものがなかったので、キリスト教の組織がローカルに根付いたのだという意見があった。4世紀末のガザ何かでは「異教徒」の方が多かったので、テオドシアヌスの通達が出ても、税金を払ってるだろう、と言って、神殿を壊したりせずに、逆に、ヘラクレス像を壊したキリスト教徒に市が弁償を求めたらしい。
 
 キリスト教徒は異教の神殿の建築的価値などは認めていたので、決して組織的に破壊しようなどとは思っていなかった、ただ、彼らに耐えられなかったのは、異教の祭壇の上に残る血を流す獣の姿だったのだという人もいる。それは、ジョゼ・ボヴェがマクドナルドを襲撃したのと基本的に同じで、「形而上的エコロジー」の感情だというのだ。

 こういう「形而上的エコロジー」とか「心理的霊的仮説」とか、あまりアカデミックでない言葉が飛び出してくる部分がおもしろい。

 後は、結局、イデオロギーの補強となるのは宗教の機能のひとつだ、ということで、それによってまた宗教の方も変質していくという宿命論も感じた。

フランスの番組っぽいと思ったのは、Alfred Loisy(1857-1940)の有名な言葉「イエスが神の国(の到来)を告げたのに、やってきたのは教会だった」というのを引いて、識者の感想を聞いたところだ。このフレーズのせいでロワズィは破門されてしまったくらいに当時は大騒ぎだったのだが、これに対する反応も微妙だ。
 
 イエスの予告したのはイスラエル王国の復活だったので、政治的だった、イエスはユダヤ教の改革者であり、司教団のことなど考えてもいなかった、という人もあれば、教会がとりあえず時間稼ぎをしているので、教会も神の国の到来を待っているのだ、という人、いろんなニュアンスがある。

 なぜコンスタンチヌス帝が改宗したかについての回も興味深かった。

 この番組はDVDになって販売されるのだろうが、ほとんどが識者コメントなので、本になって訳されれば、日本人にも非常に役に立つ参考書になると思う。多少なりとも「西洋」関係の研究とかしてる人には、「ユダヤ生まれのキリスト教がどうしてそこまでヨーロッパを形成したのか」というのが西洋人にとっても永遠の謎であることを知るのは無意味でない、と思う。

 
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by mariastella | 2008-12-21 08:06 | 宗教
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