L'art de croire             竹下節子ブログ

Van Dyck の不思議

 最終日近く、ジャクマール=アンドレ美術館にようやくヴァン・ダイク展を見に行った。この美術館はニッシム・ド・カモンドと共に、なぜか、とっても落ちついて、前世で住んでたんじゃないかなあ、と思える場所なんだけれど、この寒いのにえらく込んでいて、道にまで列ができていたので驚いた。

 で、ヴァン・ダイクだが、今回は肖像画だけで、ドラマチックな宗教画はないのだが、かえってぞくぞくした。

 ヴァン・ダイクの描いたマグダラのマリアは、17世紀のバロック時代における一連のマグダラのマリアの絵画表現の出発となったものだと思う。
 彼なしには、たとえば、Nicolas Regnier や Claude Mellan の マグダラのマリアの表現は生まれなかった。マグダラのマリアのイメージといえば、それまでは、罪の女時代の肉感的なものと、苦行をした後の壮絶な姿に引き裂かれていたのが、Van Dyck は 一種 atemporel 非時間的なものを持ち込んだ。

 彼の描く貴族たちの肖像を見ていて、圧倒的な上手さにも感心するが、何にもっとも驚かされるかというと、elegance と arrogance の共存だ。
 
 エレガンスというのは、バロック時代のフレンチ・エレガンスの意味で、「もてるものを全部見せない、出さない、マキシマムを強要しない」という感じで、後のロマン派が垂れ流すような情熱や不安などは、抑制されて、人工的頭脳的に再構成されて提供される。

 アロガンスというのは、一種投げやりな横柄さ、尊大さ、傲慢さであり、一見すると、エレガンスと対極にあるんじゃないかと思うかもしれない。

 ところが、ヴァン・ダイクにおいては、この二つが自然にハーモニーをなしているから意外で味わい深いのだ。

 それが独特の elegance nonchalante を醸し出している。つまり、天然のゆったりした無頓着な感じを伴うエレガンスであり、末梢神経をくすぐるような緻密さは表に出てこない。

 このアロガンスがどこから来るのかといえば、画家にとってはその圧倒的な技量、技術、天才から来る。つまり、そのやすやすとした感じ、facilite から来る。
 そして彼のモデルとなる王侯貴族たちにおいても、その、貴族ゆえに浮世離れした生来のnonchalance が、自然な尊大さにつながるのである。

 チャールズ一世の表情にあふれるメランコリーはまるでこの人が清教徒革命でやがて処刑される運命を暗示しているかのように見えてしまう。しかし、その心もとない、胸を締めつけられるような哀しみの発露にかかわらず、王権神授を唱えた絶対君主の息子として生まれて専制を続けた「生まれながらの権力者」だけが持ち得るような、どこか投げやりで、人生を外側から見ているような冷たく尊大な非現実感がある。

 絵のスタイルのエレガンスと、画家の才能とその確信からくるアロガンス、そこに、モデルの王侯貴族の出自から来る独特の投げやりさをまとったアロガンスが加わって、ヴァン・ダイクの肖像画には、エレガンスとアロガンスが並び立つ。

 風味があって、冷たさまでが、いとおしい。
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by mariastella | 2009-01-25 04:00 | アート
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