L'art de croire             竹下節子ブログ

Slavoj Zizek の記事を読んで思ったこと

 Slavoj Zizek がオバマ大統領について、ブッシュの野蛮な覇権主義からちょっとソフトでヒューマンなものに変わっただけで、アメリカの帝国主義的態度は同じじゃないか、みたいなことを書いていたのをLe mondeの翻訳で読んだ。

http://www.lemonde.fr/archives/article/2009/01/31/apres-sa-version-barbare-voici-l-empire-americain-a-visage-humain-par-slavoj-zizek-philosophe-slovene-professeur-a-l-universite-de-ljubljana_1149055_0.html

 オバマの就任演説を聞いて、私も全く同じことを考えて、オバマ・ファンのフランスの友人たちに話したら、

 「それは、彼に投票した人たちへの当然のリップ・サーヴィスだ。民主党はアメリカ一極支配はもう不可能なことをよくよく知っているので、根本的に変わった。ヒラリー・クリントンははっきりとそれを認めている。現実的だよ」

 と、弁護された。

 もともと、私は、1人の人間が熱狂的に崇められたり夢や期待を一心を集めるという状況自体が好きではない。はっきりと、特定の国の「国益」を代表すると分かっている人の場合はなおさらだ。

 大体、政治家のメンタリティそのものが私とはあまりにもかけ離れているせいもある。

 もちろん、夢と信念と使命感を持って邁進する人が世の中には必要で、そういう人が少しずつ世界をよくしていくのだろうとは思うのだが、あんなにも世界中から注目されているシーンで、あんなにも大風呂敷を広げて、熱狂されて、この人、就任式の前は眠れないんじゃないか、と、馬鹿な心配をしてしまう。 ま、こういう人は、興奮して眠れなくても、不安で眠れないなんてことはないんだろうけど。

 Zizekは、イタリアのSilvio Berlusconi がオバマを賞賛した言葉も引いている。

 「若くてハンサムでよく日焼けしている」

 みたいな言い方で、これを、Zizik は、リベラル白人が、肌の色を相対化して、自分たちの仲間にとりこんだだけではないかとも取れるというのだ。
 まあ、ブロンゼ というので、厳密には「日焼け」といってないが、両義的な言葉である。

 私も、すでに、白人とのハーフであるオバマを黒人初、黒人初と言い立てることへの違和感を書いたが、逆に、「日焼けした白人」みたいなとりこみ方も、確かに嫌だ。

 概して、アメリカの白人には、肌が白くない男(非コーカソイド)に対する性的コンプレックスの神話があって、実際、自分たちも、アウトドアで日焼けしたり浅黒い、という方がスポーツマンで力強い、男らしい、という路線を追っている。

 その逆が、19世紀あたりに、女性を家に閉じ込めて、肌が白ければ白いほど、労働から解放された(つまり夫の庇護にある)上等な女性というイメージでもある。
 その後で、「女性解放」運動と共に、白人女性も、アウトドアで日焼けしているのが流行になったりするのだが、それも、「力ある男=浅黒い」に追いつくため、という部分もあって、色が黒い方が身体能力が高い、という刷り込みはなかなか根が深い。

 初期アメリカの黒人奴隷が身体能力が高かったのは事実である。

 労働力として取引されたので、もともと、骨格などを基準に選ばれている。
 過酷な条件の航海で、さらに強靭な者が生き残る。
 過酷な労働でも、弱者は淘汰されていったろう。

 プランテーションでは一人の白人農場主に対して、黒人労働者の数が圧倒的に多かったので、基本的に白人の「主人」は身の危険を感じて武装する。

 今も「非白人」についての性的幻想はあるみたいだ。

 オバマ大統領は、いわゆる解放奴隷の子孫ではなく父親がケニア移民ということで、そのような、政治的に微妙な言説からは少し自由な立場だから、「若くてハンサムで浅黒くて」と言われても、普通に賞賛に聞えるかもしれない。

 でも、これは確かに、女性大統領ならば、「若くて(あるいは若々しくて)美人で雄々しくて」と言われているのとちょっと近いかもしれない。「男勝り」とか、「(女だけど)勇敢で決断力があってタフでダイナミックで」などと誉めたりされることは、「勇敢で決断力があってタフでダイナミックで」などが伝統的に男の美点、長所とされていることと切り離せない。
 もしこれが黒人女性だったりすると、「若くて美人で浅黒くて」というのは、ストレートな賞賛にはならない。いくら白人女性が「ヴァカンス焼け」を目指す時代になっても、やはり「浅黒い」のは「逞しい男」の含意とセットになっているからだろう。

 ヒラリー・クリントンの金髪を見ても、文化的含意のニュアンスを感じる。
 もともとラテンの混血が多いフランスには純粋のブロンドは少ない。
 しかし、女優などは簡単にブロンドに染めるが、女性政治家がブロンドに染めるのはそれなりの勇気がいる。「ブロンド=頭が弱い、とか男に媚びる」というような偏見があるからだ。
 逆に女性政治家でブロンドで勝負しているのは青い目とセットになっていて「ほんもののブロンド」というアピールができる。
 
 こういう微妙な「外見」やそれにまつわる言説を見ていると、日本の政治家なんかは少なくとも色黒とか色白とかがコメントの対象にならない点では、シンプルかもしれない。

 しかし、女性政治家の外見が男性のそれよりも、たとえ賞賛という形をとっても取りざたされることが多いのは、やはり、差別と賞賛が裏表の関係にあることを思わせる。

 同じZizekの記事には、「食糧は他の商品のような商品ではない」とビル・クリントンが強調したことが引かれている。Zizekはそれに続いて、水、エネルギー、環境、文化、教育なども同じで、市場経済にまかせるべきではない、と書いている。これに健康や安全も入るだろう。

 私はそれこそ、クリントンの「外見」を最初に見た時、なんだか南部の人種差別主義者っぽい感じだなあ、などという謂れのない偏見を一瞬抱いたのを覚えている。
 ブッシュ大統領がイラク派兵のことで熱くなっていたときには彼の顔をTVで見るだけで気分が悪くなった。
 それに対して、アル・ゴアなんて、何となく、エコロジーの闘志が似合いそうだ。意外性はあまりなかった。

 だから、ビル・クリントンのこの発言(2008年10月国連)が、「先進国」主導の世界の食糧供給システムの非人間性をきっぱり説くことが、意外でもあり、好感が持てた。 
 引退したキッシンジャーの核廃絶コメントの意外さと気持ちよさと似ている。

 国と国益を背負っている時の政治家は、当然なかなかこういうことは言えない。
 でも、彼らが現役を去った後で、真に地球的視野に立つまっとうなことをどんどん言ってくれると、見直すし、なんだか希望が持てる。

 その意味で、フランスがその特徴である「文化ソシアル」と「教育ソシアル」を手放して、大学の独立法人化なんていう方向に行きつつあるのは、大問題だ。

 文化ソシアルの方は、フランスのブランド・イメージもあるのでサルコジも昨今は変に強調しているものの、本来は小手先の話で済ませるものではなく、アメリカとヨーロッパが築いてきた現代の世界の構造そのものの変革の中でしかとらえられない本質的なものであるべきだろう。

 

 


 




 
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by mariastella | 2009-02-07 00:12 | 雑感
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