L'art de croire             竹下節子ブログ

鉄道飛び込み自殺対策の哀しみ

 昨日の新聞は、パリの郊外線(基本的に国鉄のみ。パリ内部は地下鉄が基本)がこれまでのタブーを破って、線路へのとび込み自殺の対策に本格的に取り組むことを報じていた。

 2日に1人の割合で死ぬのだそうだ。実際よく遅れが生じる。

 しかし、これまでは「人身事故」とか単に「事故」のためとアナウンスされるだけだった。
 それでなければ「電気系統の故障」とか、けっこう具体的なのだが・・・

 一人とび込むごとに引き起こされる平均2時間の遅れによる損害も大きいが、よけ切れなかった運転士や後始末をする職員のトラウマも大きい。

 それで、タブーを破って、本格的な「対策」に乗り出した。

 それにあたって、他の国の対策例を現地にも出むいて調べたそうだ。

 カナダでは減少に成功した。

 ホームでそれらしい人の様子を見抜いて声をかけるために特別の訓練を受けた職員を配置する。

 とび込む人は、列車が入ってくる前の闇に引き寄せられることが多いので、列車が入る直前に強烈な照明が当たるようにして「闇」を排除する。

 とび込んでも必ず死ねるとは限らない、失敗率もあり、そうなるともっと悲惨なことになる、ということを宣伝する。

 などだそうだ。でも、調査に来たフランス人に対して、カナダ側は、自殺という言葉をやはり使わなかったのだそうだ。「救急車の要請を必要とする事件」と呼ぶらしい。

 国鉄のこの対策に対して、2008年度はむしろ自殺者が減少したとされるパリの地下鉄側は、ノーコメントで通しているそうだ。「タブー」は健在なのだ。

 私が胸をつかれたのは、東京の「人身事故」が有意に減ったと聞いてその対策を調べた話だ。真偽は知らないが、それは、

 「とび込み自殺による損害の賠償を遺族に請求する」

 という決まりの成果だという。

 このような「Un code de l'honneur (名誉の観念に基づく決まり)」はフランスには適用不可能だ、と書かれていた。

 これが皮肉なのかどうかよく分からないけれど、日本ならこういうこともあるかもしれないなあ、と思った。

 リストラなどで失業したり破産したりした中高年の自殺がよくあるというのは聞いていた。自分が死んで残された家族や従業員の活路を開こうと思った人もいるかもしれない。ただ疲れて絶望した人かもしれない。
 そんな時に、自分がとび込んで、家族に損害賠償が請求されるのでは意味がない。残された者に迷惑がかかる、と言われるのは、とび込みのせいでダイヤが乱れると言われることと比較にならない抑止力になるだろう。

 なんだか、確かに日本だから通用しそうで、日本だから考えつきそうな対策である。

 分かるような気がするだけに、哀しくて、心が凍る。

 
 
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by mariastella | 2009-02-11 23:32 | 雑感
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