L'art de croire             竹下節子ブログ

誰がマギーを殺したか?

 3月13日、TVでウィリアム・カレルによるドキュメント番組『誰がマギーを殺したか?』を見て驚いた。

 マーガレット・サッチャーが首相の座を降りることになった1990年11月の3日間を追ったものだ。
 その時、サッチャーはパリを訪問していた。
 私もフランスにいたのだからこの事件をリアルタイムで聞いていたはずだが、なぜか印象が薄く、長かったサッチャー政権もようやく終わって、冷戦終結によって世界も変わったのだから、いつの間にかジョン・メイヤーになっていたのだなあ、というイメージだった。

 このドキュメンタリーを見て、彼女を政権から引き摺り下ろすためにいろいろな「陰謀」があったことが分った。それはどの国にも政権交代にまつわる裏話というのはあるだろう。でも、気持ち悪くなった。

 私は日本とフランスにしか住んだことがないので、そしてこの二つの国は、どこか似たところがあるのをいつも感じているのだが、アングロサクソンの国の残酷なメンタリティにはびっくりだ。

 これまでは特にアングロサクソン・メンタリティとしてはアメリカを見ていたので、イギリスは「近くて遠い国」だった。アメリカには新興国のフロンティア精神と世界リーダー使命の幻想があり、ブッシュ=カウボーイ、オバマ=ミッキーマウス、という風にフランスでは揶揄されているが、イギリスはそれなりに伝統があり大人の国だよな、などと漠然と思っていた。

 このドキュメンタリィを見ると、イギリスのアングロサクソンの中で、単純でいい性格のやつがアメリカに渡って、残ったのは救いがたいひどいやつらじゃないか、と思いそうになった。

 イギリスと言えば女性禁制のクラブとかパブとかありそうで、ジェントルマンの国で、と「男性優先」な感じもするが、控えめな雰囲気だから、マッチョなイメージはないし、なんといっても、女王様の国、その上、11年にわたるサッチャー政権の華々しさで、女性が解放されてる先進国かと思っていた。

 細かいことをここに書かないが、驚いたのは、この革命というか陰謀の当事者である当時の大臣たちが、インタビューされて証言してることで、その答え方に、慎みがないことだ。サッチャー女史はまだ存命である。

 そして、当時の議会でのサッチャー女史と彼らとのやり取りを聞いても、その下品さ、露骨な嫌がらせ、それにすっかり慣れた感じのサッチャーの受け応え、などに驚いた。サッチャーを攻撃始める男性議員たちは、ジェントルメンどころか、本能むき出しの悪ガキのような態度である。

 もう一つ、当時のイギリスの政治風刺人形劇がところどころにはさまれるのだが、その醜さが尋常ではない。
 女性差別で女性だけ醜く現しているのではなく、政治家は、男たちもみな、この上なく醜いのだが、サッチャーやエリザベス女王ですら、非常に醜い。リスペクトのかけらもない。

 政治家を中心に風刺する人形の寸劇ギニョールというのはフランスにもあって、そこでももちろん、登場人物はデフォルメされているが、カリカチュアであっても、どれも笑える。それを見慣れてるにもかかわらず、イギリスの人形はあまりにもグロテスクで、悪意を感じる。

 内容も、自分の人気が落ちてきたことを知ったサッチャーが、美容院に行って、人気の出る髪型にしてくれと頼んだら、はい、いいですよと答えた美容師が剃刀で彼女の首をばっさりと刎ね、赤い切り口が残る、というようなショッキングなものだ。前後関係から考えても、非常に気分が悪い。

 フランスのギニョールを見ると分るが、特に、女性は、ひどくデフォルメされないで、それなりにきれいに作られる。まあ、話し方は、ヒステリックだったり、馬鹿げていたり、しっかり揶揄されてはいるのだが、全体的に、あきらかに、女性には親切である。

 フランスは、女性の参政権獲得が遅かったり、女性議員の数も少ないし、賃金格差の問題もいろいろあるのだが、男性の国会議員が堂々と、権利の平等とは別に、自分は女性議員にギャラントリーを尽くす、それはフランスの文化であるから、と言うのを私は直接耳にしたことがある。

 サッチャー女史は、鉄の女、ということで、絶大な権力を振るったわけだが、その時代のイギリスにおけるあの、男性たちの意地悪な感じは一体なんだったんだろう。
 イギリスの男たちは、首相が女性であることに、本当は耐えられなかったんではないだろうか。

 このドキュメンタリーを見る限り、単なる政権交代にまつわる泥仕合、だけではなく、もっと根強い差別的なものが明らかに感じられる。ものすごく下品だと思った。

 サッチャー女史は、同じように新自由主義の旗手となって冷戦終結のヒーローとなったレーガン元大統領と同様、今はほぼ認知症状態だそうだ。「昔の仲間=裏切り者?」たちがその彼女の状態について語ったり、それを知った上でタブーなく当時のことを嬉々として語る様子も、見ていて気分が悪い。

 そして、このような人々が11年も彼女の「下」にいたのだから、さぞや悪意や憎しみが鬱積したのだろうな、とあらためて思った。故ダイアナ妃の悲劇のことも思い出した。

 こうなると、サッチャーから20年近く経った、ドイツのメルケル首相なんて、メディアからどう扱われて、どのように思われているのかのゲルマン男の「本音」に興味が出て来た。
 
 アメリカ大統領選の予備選で落ちたヒラリー・クリントン、フランスで予備選には勝ち抜いたが本選で落ちたセゴレーヌ・ロワイヤル、彼女らをめぐる言説も、一皮むけば「政治的公正」を欠くものも多い。

 しかし、日本やフランスでは、女性議員、女優、皇族らに対して、本音や裏は知らないが、イギリスのタブロイド紙のような扱いはあり得ないし、TVや議会でも、ああいう形での貶め方はないと思う。

 あんなんで耐えられるのか、イギリス女性。

 フランスに住んでいて助かった、と思うのはこんな時である。

 
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by mariastella | 2009-03-20 00:42 | フランス
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