L'art de croire             竹下節子ブログ

インフルエンザの報道について

 日本にいる間にメキシコ発の新型インフルエンザの報道が始まって、胸が悪くなった。
 過剰反応というか、恐怖心をそそるような、カタストロフィ映画のような映像ばかりだし、あの段階で、大臣がが午前1時とかに記者会見するのにも驚倒した。メキシコから来た飛行機に乗り込む検疫の人の様子も。
 フランスではだいぶ違うだろうなあと想像していたが、やはり、メキシコ便の検疫も5月に入ってから始まったばかりらしいし、アフガニスタンの情勢とかのニュースの方が大きい。日本では、飛行機の旅、大丈夫ですか、といろんな人に言われたが、シャルル・ドゴール空港もいつもと同じアバウトな感じだった。

 9・11の時も、日本のニュースは邦人の消息ばかり伝えて、フランスでは、フランス人の消息よりも総合情報が多かった。まるで日本の政府は日本人の安否をすごく気づかってくれているみたいだが、海外に暮らして何十年、日本の海外公館が邦人のサーヴィスに徹しているという実感はまったくない。むしろ冷たい、というのが実感だ。フランスの方が、移民2世のフランス人が9・11に関わってアメリカで裁かれた時も熱心に人権保護をしようとしていたし、紛争地域におけるフランス人の人質救出にも明らかに熱心だ。

 日本のあの熱心さは、いわゆる水際作戦で、悪の元がうちに入り込まないようにしよう、というだけの自己中心な態度だけだ。伝染病が起こるとまたたくまに大惨事になるような開発途上国の構造的や技術的な問題に対してそもそも何か援助できるのか、という発想はない。
 
 それでも、それですら、フランスでは、この新型インフルエンザに対する過剰報道を批判する声をいろいろ聞けた。

 まず、メディア操作の問題だ。

 たとえば、スリランカでタムールのゲリラ殲滅の政府軍の攻撃に巻き込まれて死ぬ人々の様子は撮影禁止だから出てこない。人がいなくなってがらんとしたメキシコの通りの映像を流す方が恐怖心をそそることができる。

 新型インフルエンザは確かに世界中に被害を及ぼす可能性があるが、普通のインフルエンザでも、高齢者や子供や免疫力の弱っている人の間では死者を出す。でも、先進国では概して栄養状態がいいし、抗ウィルス剤もあるから、大惨事になる可能性は、後進国に比べてずっと少ない。アフリカでのエイズの蔓延を考えても分ることだ。

 日本やフランスのような国では、インフルエンザによる少数の死者が出ても、それはすぐに、餓死者の数よりも多くなる。しかし、地球には10億人の栄養失調者がいて、日に2万人死んでいる。マラリアでは、毎日3000人の子供たちが死んでいる。

 逆に、ヨーロッパのような地域で本当に深刻なのは、政治的構造的伝染病の上陸である。たとえば、セネガルあたりから毎日のように飲料水もなく送り込まれて漂流する膨大な数の不法移民の問題だ。
 どんなに「強制送還」したり、取締りしたとしても、故郷で餓死するかサヴァイヴァルをかけて危険な渡航をするかどちらかだ、という人々を止めることはできない。ウィルスを水際防止する難しさどころではないのだ。地球における根本的な貧困の問題と向き合わない限り解決できない。

 日本でも、アジア諸国からの不法移民者の問題は深刻になっていると思う。しかし、貧困をウィルスのように水際で撃退するだけで解決できる問題ではない。
 そして、構造的な貧困の問題は日本国内にも広がる。

 日本では毎年、自殺者が3万人を超えている。一日100人近くが自ら命を断っている計算だ。

 はっきりいって、インフルエンザどころではない。

 ものものしい検疫や午前一時の記者会見する暇に、人々がなぜ自殺に追い込まれるのか、構造的、政治的、精神的な原因究明や対策に真剣に取り組むべきではないのか。

 新型インフルエンザについての報道を聞いていて胸が悪くなったのはそのためだと思う。
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by mariastella | 2009-05-06 18:09 | 雑感
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