L'art de croire             竹下節子ブログ

介護施設でコンサートをする

 昨日(火曜)は、日曜に続きコンサート。

 前から約束していた愛徳姉妹会の老人ホームのチャペル。

 オーガナイザーは、イランのファラ王妃の恩師として有名なシスター・クレールだ。彼女自身が91歳なので、私は、引退した年配のシスターたちのホームかと想像していた(愛徳姉妹会はフランスのソシアルの出発点ともなった由緒ある活動修道会である)。だから、私たちのトリオが、日本でも愛徳姉妹会の養護施設で弾いたりチャリティコンサートをした事などを、最初に話そうと思っていた。

 ところが・・・見かけたシスターは、シスター・クレールを入れてたった2人。

 後は、120人のお年寄りがいて、寝たきりの人や認知症の人も多い。
 つまり、シスターの経営する一般人向け施設だったのだ。

 ぎりぎりに着いたら、会場のチャペルには車椅子の人が何人かいたので、祈りに来ているのかと思った。

 ところがその後も続々、車椅子の人が、ピンクの制服を着たドイツ人介護士に押されて入ってくる。
 結局、舞台になる祭壇の前には、ずらっと車椅子が並び、無表情の人や頭が傾いたままの人もいて、ここはルルドですか、という雰囲気になった。後ろのベンチ席には、老夫婦なんかも座っているが。

 私がマイクで自己紹介を始めると、耳がよく聞えない人がいるからもっとマイクの近くで話すように言われる。
 えっ、耳、聞えないのか・・・? 
 演奏の時にはマイクの電源を切るのに。

 シスター・クレールが、45分で切り上げてくれ、その後寝に行く人がいるから、と言ってきた。

 曲目を少し削る。

 古いチャペルはいつもそうだが音響が良く、気分よく弾けた。

 そして、弾いていくにつれて、無表情だった人たちの顔が開いてくるような気がした。
 はっきりと微笑みが出たり、目が輝いてくる人もいた。何よりも、「開いてくる」というのがぴったりだ。
 さっきまでそこにいてもいなかった人が、だんだんと姿を現して来る感じだ。

 最後の方のダンス曲で、かすかにあえいでいるような息遣いがしたので驚いたが、それは、動けないお年寄りが、明らかに、リズムをとろうとして反応しているのだった。

 終わったら、お庭のバラをブーケにしてプレゼントしてくれた。どのバラも、可憐なつぼみはなくて、これ以上はないだろうというくらいに咲ききっていた。

 まっさきに私たちに話しにきたのは、車椅子だが活き活きとした女性で、昔は子供たちのコーラスを率いてヨーロッパ中をまわったという女性だった。もう一人は、クラシックは好きだがこれまでバロックは好きではなかった、今日はじめてバロックの新しい体験をした、と言ってくれた。

 シスター・クレールは、ルイ15世の宮廷にいるようだった、ピュアそのものだった、踊りたかった、と言ってくれた。彼女は、「実はすごく心配していたのだ」と言った。

 疲れると叫ぶ人がいるし、咳き込む人もいる。大体、チャペルまで来るかどうかも分からない人もたくさんいる、しかも、バロック音楽なんて、みんなじっと耐えられるだろうか。と心配でたまらなかったというのだ。

 そんな心配な状況だったなんて、知らなかった。

 シスター・クレールは、次回はスライドショーと組み合わせよう、とすっかり元気である。

 今回聴いた人たちが亡くなって次の人たちと入れ替わったらまたやれるし、って言う。入居待ちのリストは長いんだそうだ。

 シスター・クレールにはいつも驚かされる。

 年をとるのは、自分でそうと決めて、しかも暇のある人のすること、というのが彼女の信条である。
 彼女のように物質的な生活の心配がない人間は一生働き続ける特権があるのだそうだ。
 
 彼女は昨年転倒して大腿骨を折っている。90歳で骨折すると、さすがのシスター・クレールも、復活できないんじゃないかと懸念していたのに、手術し、リハビリに努めて、2ヵ月後には杖をついてパリに出てきた。昨日なんか、ほぼ飛び跳ねていた。
 ファラ王妃の伝記の中には、シスター・クレールはパリの商家の生まれで、その頃には珍しく、15歳まで洗礼も受けず、冒険ばかり夢見ていたとある。趣味は数学。遠くへ行きたい、数学を教えたい、という二つの夢を同時にかなえるために、宣教地の教師になったのだ。イランのミッション女子中学校ではじめてバスケットボール部を作り、未来のファラ王妃がその初代キャプテンだった。

 カンヌでグランプリを取ったアニメ映画『ペルセポリス』に、ジャンヌダルク校のシスターは厳しく、屋根裏に閉じ込められたという話が出てきたのを、屋根裏なんかはなかった、と閉口していたが、シスター・クレールは当時も今も、筋金入りの自由人であり、フェミニストである。

 シスター・クレールのファンである篤志家夫婦が持ってきたジュースやお菓子を摂りながら、明るいサロンで、イランのムサビ支持者たちのデモのニュースを眺める。彼女の状況分析は鋭い。

 いろんな時代や場所や文化や心身状態が交差した不思議なコンサートだった。
 
 
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by mariastella | 2009-06-17 22:55 | 雑感
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