L'art de croire             竹下節子ブログ

Le Hérisson と Bambou

 軽くて楽しいフランス映画を見ようと思って、動物が出てくることもあって、2本選んだ。

 軽くて楽しい、というのは、意外に難しいということが分った。
 芸達者な俳優ばかり出ている割にはいかしきれていないし、いろいろ不自然だし、今ひとつ見ている間夢中になれなかった。パリが舞台、前者には小津さんという日本人も出てくるし、3つの家庭でみな猫を飼ってるし、後者は犬だが、ヒロインはピアニストだし、何となくなじみの世界でとっつきやすいかなあと思ったのだが。

 Le Hérisson( Mona Achache)はベストセラー『ハリネズミのエレガンス』の映画化だ。シックなパリのアパルトマンの住み込みの管理人のおばさんが実は、本好きのインテリだったという設定で、彼女の真の姿を知るのは、大臣の娘で、早熟で自殺願望のある11歳のパロマと、何をしてるのか分らない初老の金持ちそうなおとこやもめの日本人小津さんだけ、この3人に信頼関係や愛情が生まれる。

  ヒロインはJosiane Balaskoで、初老でぱっとしないもっさりした掃除のおばさんが実は・・・というのは『セラフィーヌ』のことも思い出す。けれど、セラフィーヌが実はシャーマニックでアーチストで絵を描くのに没頭してるのはすごいと思ったけど、このヒロインのルネは、ただつまみ食いしながら本を読んでいるだけで、正直言って、どこがすごいのかよくわからない。ドアを開けたら何だか天文学の研究をしてるとか、哲学の論文かいてるとか、古文書を解読してるとかならすごいなあと分るけど、ただ、本がいっぱいあるだけだ。
 しかも、小津さんとは、トルストイの文章なんかを応答しあうことで、「趣味の高尚さ」が通じ合うような設定なのだが、この小津さんって、フランス語が別に特に上手くもないのに、暗誦するほどの愛読書がトルストイの仏訳ですか・・・
 それならまだロンサールの詩なんかを引用しあって「おっ、趣味があいますね・・」とかいう方が自然じゃないか。モンテーニュの引用とかでもいいし。
 「本がある」のが偉いのなら、大臣の家にだって、たくさん本はあるみたいだった。でも彼らはどうしようもない俗物として描かれている。それに対して管理人のルネは、「ハリネズミ」で、人はなかなかそばに寄せつけないけれど、実は中味は繊細でエレガントであるというのである。ところが、私はルネが実は読書家だと知っても、別にエレガントだとは思えないのである。ミスティフィカシオン即エレガンスにはならないし、「小津さん」だって、変なやつだと思う。

 まあ、これを成立させているのは、パリの立派なアパルトマンの住み込みの管理人というものが、口やかましかったり、ポルトガル移民の夫婦だったり、住民の赤裸々なすべての側面を見ているのだが、住民からは実は人格を無視されているという、独特の差別構造なのである。つまり、そこにいるがいないのと同じだと思っていた「2級人間」が、実は、部屋に書架を並べるような「人間」だった、という驚きで、彼女をそういうレッテルで見ない子供とか外人だけが、真の姿を見つけるのだという、安易な寓話的枠組にこの原作や映画はのっとっているわけである。原作を読んでないから何ともいえないが、読み始めたら11歳の子の小難しい言い回しに飽きて途中でやめた、という人を知っている。この設定なら私だったらもっとましなものを書けると思う。映画のパロマちゃんは可愛いし、白黒の絵のセンスもなかなかすてきなので細かいところは楽しいのだけれど。
 愛猫としては、大臣のブルジョワ家庭にはペルシャ猫、ミステリアスな小津さんちにはシャム猫っぽいの(ロシアンブルーみたいだが、しなやかに痩せている)、管理人のうちには、テーブルの上に平気で座り込むしつけの悪い雑種猫がいて、そこんとこだけがうちと同じで、うちの猫の飼い方は、階級的にいうと最下層なんだなあと妙に納得した。
 後、通いの家政婦が、大臣のところは時給8ユーロで安いが、12ユーロのところを見つけたのでやめてやる、と言っていたが、うちの家政婦さんの時給は10ユーロなんで、まあ妥当かなあとほっとした。13ユーロ払ってる人も知っている。

 もう一つは、Bambou(Didier Bourdon)で、完全なコメディなのでもっと笑えるかと思ったが、冗長だった。
 子供が欲しいカップルのところに突然犬がやってきて、カップルの邪魔をする上に、女性の方が急に国際的なピアニストとしてのキャリアが可能になってうちを留守にし始める。
  Didier Bourdon, Anne Consigny, Pierre Arditi, Eddy Mitchell, Annie Dupereyと、個性的な人が多いし、設定ももっと楽しめるかと思ったのだが、こうなると、やはり演出が下手なのか。
 ここにはアジア人の家政婦が出てくる。支払いの場面も出てくる。ブルジョワ的なアパルトマンに住んでた主人公がいきなり屋根裏部屋に引越ししたりして、ここでも、階級とかパリの外国人の人間模様とかいろいろカリカチュアライズされている。中途半端にリアルだと笑えないなあということがよく分かった。これくらいならハリーポッターの新作を見に行った方がましだったかもしれない。

 ちょっとがっかりという点では、今読み始めたEmmanuel Carrèreの『D'autres vies que la mienne 』もやや期待はずれだった。お手軽な感動や笑いを求めている場合じゃないのかも。今ぼーっと読んでいるものでなんとか面白いと思えるのは三角関数論と、サラ・パレツキーくらいかなあ。後はB16が最近出した回勅。貧困についての考え方には根本的な新しさ(実はイエスの頃から一貫してるのだが・・)が見られて、危機感やら絶望よりも何だか希望を感じさせてくれる。悪くない。
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by mariastella | 2009-07-12 07:41 | 映画
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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