L'art de croire             竹下節子ブログ

Demain dès l'aube...

Demain dès l'aube...

ユゴーの詩の話ではなく、今年のカンヌの出品作だった Denis Dercourt 監督作品のタイトルだ。
 『譜めくりの女』は女性二人の心理スリラーだったが、今度は男性二人、兄弟が主役だ。
 Vincent PerezとJérémie Renier。ヴァンサン・ペレスがこんなに名優だったとは今まで気づかなかった。

 二人ともはまり役だ。

 いろんな意味で私のツボにはまる映画である。

 ドゥ二・デルクールは私と同じヴィオラ奏者で、音楽院教授でもある。だから、音楽の現場が必ず、かなりのリアリティで描かれる。
 ヴェルサイユあたりで自分のエージェントも兼ねている妻と息子とブルジョワ風に暮らす国際的ピアニストがヴァンサン・ペレス。個人教授もしている。
 もう少し遠くの郊外の一軒家で暮らす母と弟。弟は工場に勤めている。この弟が、ナポレオンの軍隊のローリング・プレイのグループにはまっているのである。母は、癌の再発で入院、次男のことが心配で、長男に自分が入院している間、弟と一緒に住んでくれと頼む。弟の方は、兄が妻と別居したのだと勘違いしている。
 で、この弟が、勤めが終わると、森で、ナポレオン軍の野営や訓練のコスプレをしているのである。そこに集まる人は皆、昼間の顔とは別の、こちらの世界の顔、役割、ヒエラルキーがある。

 その辺が怖い。
 
 私はリアルにこういう人たちを多少知っているからである。

 フランスには中世愛好家のコスプレグループ、第一次大戦愛好家、第二次大戦愛好家がいて、雑誌も出ている。かなりマニアックなグループだとは分る。秘密結社みたいだ。

 中世はまだしも、こういう「戦争愛好家」のプレイが私は苦手だ。
 ノルマンディ上陸作戦の記念日にも必ず、アメリカ人の愛好家たちが当時の軍服を着て毎年模擬上陸をやっている。一見観光のパフォーマンスのようだが、かなり本気である。

 日本でも模擬戦争とか、模擬サヴァイヴァル体験というのも時々聞く。
 でも、関が原の戦いとか、戦国時代とか、そういう「時代物」の戦争や日清日露戦争の愛好家のグループのかなり危険なコスプレとかあるんだろうか。時代物映画がTVの撮影か、テーマパークしか思いつかないのだが、日本でも、やってる人いるんだろうか。それともヴァーチャルにとどまっているだけなのだろうか。

 私の知り合いは過去のピアノの生徒の親で、同じ通りに住んでいる。ナポレオン画家で、当時の服や小物も全部手作りしている。地下室にアトリエがある。

 小柄で華奢で、戦争マニアのイメージとはギャップがある。

 くらくらする。

 彼の実兄は、等身大自動人形オートマタの製作者である。

 これも怖い。

 変な話だがヒトラーにかぶれてナチスのコスプレなんかしているとドイツなどでは刑法に触れる。
 
 ナポレオンには歯止めがない。

 けっこう怖い。

 ナポレオンは、聖母被昇天祭の8月15日生まれである。
 だから、聖母被昇天祭を聖ナポレオンの祝日にした。
 聖ナポレオンをでっち上げたのだ。

 映画では、弟を止めようとする兄がだんだんと異様な世界に引き込まれていく。

 その世界で、命をかけた決闘が組織される。
 死者がでれば、古式の狩をしているうちの事故であると皆が口裏を合わせることになっている。

 私はいつかナポレオンについて書こうと思っている。
 ナポレオンはジャンヌ・ダルクとルイ14世に並んで、最も多くの本が書かれたフランス人である。

 でも最も多くの人を今でもパラレルワールドに引き込んでいるのは、ナポレオンだけではないだろうか。

 
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by mariastella | 2009-08-21 06:30 | 映画
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