L'art de croire             竹下節子ブログ

V・I はクリスチャンではなかった!!

 サラ・パレツキーの『センチメンタル・シカゴ』(ハヤカワ文庫)を読んで、びっくりした。

 前から、パレツキーの描くシカゴの宗教事情はすごく説得力があるなあと思っていた。

 ヴィクのポーランド人の父親が警察でアイルランド人の派閥に阻まれて出世できなかったが、明らかにカトリックつながりでアイルランド人の親友がいたこと、イタリア移民の母親と結婚したこと、ポーランド人とイタリア人のカップルというだけで、これも当然カトリックつながり、だと思っていた。
 ミュージカル『ウエストサイド・ストーリー』がはじめユダヤ人とキリスト教徒の恋に設定しようとして、それはあり得ないからカトリック同士にした、というエピソードがある。ジェット団もシャーク団も、カトリックだからこそ、仮想結婚が一応可能なのである。アイルランド移民子弟とポーランド移民子弟がカトリックのプアホワイト同士でつるんでいるのも分る。
 ヴィクが最初に結婚して別れた男はWASP、つまり、アングロサクソンのプロテスタントだった。互いの家庭から反対されたのもまあ分る。

 シカゴは、少なくとも30年前とかなら、マフィアのイメージが強く、マフィア=イタリア=カトリックというので、カトリック教会の影響が強いというのも分る。
 この小説に出てくるコルプス・クリスティというカトリック秘密組織がポーランド人教皇に忠誠を誓って暗躍するという構図も、ダン・ブラウンによって描かれたオプス・デイの陰謀のお粗末さよりもずっとリアリティがある。

 で、ポーランド人とイタリア人の両親を持つヴィクは当然カトリックだと思っていた。いや、彼女のフェミニズムとの係わり合いなどを見ても、筋金入りのインテリ左翼であり、メンタリティ的にはむしろピューリタン的自助努力派であるのは分っていた。しかし、少なくとも、カト的文化教養があって、洗礼は受けたが教会を離れたというか、まともに信じたことがないのだと思っていたが・・・・

 カトの右派がシカゴ大学を「ユダヤ人や共産党員の学校」と呼んでいた、とあることからも、ユダヤ人医師ロティとの友情も、そのような「インテリ左翼」心性+ロティの出身地オーストリア(カトリック)文化の親近感が混ざっているのかと漠然と感じていた。

 しかしヴィクは、この作品で何度も、「私はクリスチャンじゃない」「カトリックではない」と言い、洗礼を受けていない、と言明している。いや、カトリック右派のおばから「洗礼すら受けていないくせに」と言われている。
 母はフィレンツェの出で、母のおば(母の父親の妹)に当たる人ががちがちのカトリックなのだから、家族は当然カトリックだと思うのだが・・・
 母方の祖母がユダヤ人の学者の家庭の出身で「一族はユダヤとの混血だった」とヴィクは言っている。その辺もロティへの親愛感の原因の一つなんだろうか。しかし、ポーランド人移民の父親との組み合わせは、どう考えてもカトリックだと思っていたのだが。

 この組み合わせで一人娘に洗礼を受けさせなかったというのは不思議だ・・
 想像できるのは、ネタバレになるが、ヴィクの母親がひどい罪悪感に悩んでいたことで、彼女が「信心深い」としたらなおさらそれは重大だったろうし、それがヴィクの無洗礼と関係があるのかもしれない。

 パレツキー自身はどうなんだろうと思って、英語版のサイトを見てみたが、はっきりしなかった。
 ミステリーマガジンに連載されていた自伝も学生時代からデビューにかけての部分しか読んでないので、確かめようがない。サラって名前はユダヤっぽいし、パレツキーはポーランドっぽいし、見た目はスラブとラテンの混血と言われると通る感じだ。まあ、彼女のアイデンティティにとって最も重要なのは、宗教的頑迷や不寛容やマイノリティ差別と戦う部分にあるのだから、ことさら、親の宗教とか洗礼の有無とかで自分を形容したくないのだろうけれど。

 シリーズの他の本をもっと読まなくちゃ。
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by mariastella | 2009-10-27 00:55 | 雑感
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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