ハイチの地震で、被害の大きかった首都のPort-au-Princeのことを、日本語のネットでも たまに見かけるのだが、ほとんどが「ポルト・プランス」という表記なのには、違和感を持っていた。日本語のユニセフのページやWikiとかでもそう書いてあったし、フランス在住の日本人のブログにもそう書いてあった。私はポール・オ・プランスだと思っていたからだ。
まあ、普段は耳にしない固有名詞だし、私の聞き違いかと思ってたが、昨日久しぶりにTVを見たらやはり「ポール・オ・プランス」と、2種のニュースのキャスターも特派員も言っていた。近くにいたフランス人にも確認すると、やはりTのリエゾンはない。近くにポルトリコとかあるからじゃないかといわれた。Porto Rico は、プエルトリコのフランス語読みだ。プエルトは「港=ポート」のスペイン語だろう。
フランス語の port は、最後のT を発音しないからポールとなるが、確かに、peut-être(多分)のように、母音とつながると、プテートルのようにTが出てくるというのはよくあることだ。
もし、意識的にTを発音しないならRがリエゾンして「ポーロ・プランス」となってもいいが、R の後で僅かに休止があって「ポール・オ・プランス」と読まれている。だから意識の中で、ポールとその形容詞が分かれているのだろう。
ハイチのハイチ人は何と発音してるんだろうか。彼らは英語圏やスペイン語圏に囲まれてるから、ポルト・プランスで慣れてるのだろうか。日本は現地読み(に近いもの)に表記するが、ニュース類は英語を通してくるから英語風になってるのかしら。
マルチニーク人の生徒にギターを教えたことがあるが、ドレミのレ(フランス語で「Ré」)が発音できなかった。本人は聞けるし、発音してるつもりなのだが私には「リュウ」と聞えるのではじめは困った。
リエゾンも、たとえば、pas encore (まだ・・・ない)は、「パザンコール」が「正しい」が、北の地方の人はリエゾンしないことの方が多いし、「標準語」でもリエゾンさせないで「パ・アンコール」と言えば、「まだでよかった」というニュアンスが加わったりする。南仏語も、カナダのフランス語やベルギーのフランス語もなまりや用法まで微妙に違うし、いろいろあるのだが、固有名詞って、もっと一本化していいような気もするのだが。
まあ、日本語だって「にほん」か「にっぽん」か、Tokyo か Tokioかと、聞かれても迷うし。
フランス語は英語と違って、大体綴りと読み方が対応してるので、仏仏辞書に発音記号はないし、逆に固有名詞などで普通と違う読み方の時は、フランス語でルビがつけられてたりする。中学生用の英語の学習テキストなんかにもフランス語読みが付記されている。これを見てはじめてなるほどと思った英語の発音もある。発音記号とカタカナだけでは分らなかった曖昧音などだ。
もっとも普段バイリンガルで暮らしていると、聞こえ方と言うのは世界の分節の仕方で、基準になる言葉によって全く違うということがよく分かるので、あまり悩むのは不毛なんだけれど。音楽のリズムやハーモニーでさえ、「全く違いが分らない」という人から、非常に繊細な人まで驚くべきグラデーションがある。驚くのは楽しいことではあるが。