L'art de croire             竹下節子ブログ

美術展覚書

 明日帰仏するので、日本滞在中のことを忘れないように少しメモっておくことにする。

 うちから比較的アクセスのいい美術館ふたつ。

 根津美術館。

 新創されてからはじめて行く。暑さにかかわらず、庭園も散歩した。それまで街中ばかりにいたので気づかなかった蝉の声が耳を刺す。新しいNEZUCAFEやミュージアムショップも楽しみ。

 八十一尊曼荼羅と仏教美術の名品『いのりのかたち』展。

 もっとも興味深かったのは、釈迦多宝ニ仏坐像。銅造鍍金。北魏時代、5世紀のものらしく、法華経見宝塔品にある釈迦と多宝という二つの如来が並んで座っている。

 如来像といえば両脇に脇侍菩薩を従えて中央に君臨しているというイメージだったので、膝を触れんばかりに仲良く座っているのが新鮮。

 多宝如来が、露出が少なくシンメトリックに下で手を組んでいるのに、、向かって右に座る釈迦の方は、左肩を衣で覆い、意味ありげに微笑みながら裸の右腕をⅤ字に曲げて、手のひらをこちらに向け、隣の如来の左肩に触っている。左手には何か持っている。そのしぐさは、「これが兄弟分の多宝如来です、よろしく」と紹介しているようでもあり、多宝如来も、「うんうん、そうなんですよね、よろしく」という表情で、意味ありげ。
 小さいのに物語が詰まっているようなレリーフで、とても気になった。

 山種美術館。

 こちらも最近広尾に引越しした贅沢空間で、オリジナルグッズも充実。

 『江戸絵画への視線』展。

 私は幕末から明治期に日本画が洋画化していく過程に10年以上前から興味を持ち続けてきた。
 パリ時代の山本鼎の調査を頼まれたり、京都円山派の流れの岡本月村の貴重な資料を、お孫さんからいただいたりしたご縁からだ。月村の娘さんは、上村松園の内弟子の岡本松香で、そのエピソードも非常におもしろかった。

 この『江戸絵画への視点』では、江戸時代からすでにさまざまなかたちで洋画の影響が見られていたことがよく分るのでおもしろい。

 展示の最後には、まさに、洋画の影響を受けて確立した明治以降の「日本画」コレクションの一部がある。私は個人的にも一時期日本画を習って、多少描いたこともあるので、好きな画家もたくさんいる。長生きしてくださったおかげで一応「同時代人」として新作に感動して来たヒーローは前田青邨さん安田靫彦さんだが、前田さんの86歳のときの小品『鶺鴒』があって、「たらしこみ」の手法の青い海を背景に一羽飛ぶ白い鶺鴒に見とれた。

 近頃、アート作品と接するとき、作品を通してアーチストの全歴史と環境、私自身の全歴史と環境(見ている瞬間の体性感覚を含む)をオンライン接続して鑑賞するというのを、意識してやっている。この方法は、複製では不可能だ。「生(なま)」だけが可能にしてくれる。その後は、その時にインプットされた印象を私の「全歴史」の部分に組み込んで、後で取り出せる表象記憶にしておくのだ。一度そうやれば、後は複製を前にしてもスイッチが入って、関係性を少しずつ変えることができる。

 今までは現物を見ることと、そのはかなさというか、それが結局「ただの記憶」になることとの落差をどう処理していいか意識しては分っていなかったのだが、この方法を訓練するとすごく楽しい。
 それには作品や作家についての情報が多いほど楽しくなる。その情報の眼鏡で見るのでもなく、自分の貧しい直感にたよって見るのでもなく。オンラインのダイナミックな地図を自分の中にだんだんと形成できるように見るのだ。音楽も同じで、「生(なま)」体験なしにはこの地図はできない。

 
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by mariastella | 2010-08-14 11:38 | アート
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