L'art de croire             竹下節子ブログ

フランス人の人種差別

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で、最近、フランス人の人種差別意識の実態について質問されて答えた。

その後で考えてしまったこと。

今日は、年に一度のチベット・フェスティヴァル、正式には、チベットとヒマラヤの人々の文化フェスティヴァル。
10e Festival Culturel du Tibet et des Peuples de l’Himalaya


フランスのチベット人コミュニティは今700人ほどだそうだ。

私と彼らのつき合いは、私とフランスのつき合いと同じくらいに長い。

このヴァンセンヌの森のパゴダ周辺で行われるチベット祭にも何度も来ているが、去年からどちらかと言えばフランス仏教連合の開催するものに参加する方が多かったので、「チベット文化シンパ」のフランス人独特の雰囲気を久しぶりに味わった。

入場料は3ユーロ50。400円くらい?

でも、すぐそばに無料で散策できるヴァンセンヌの森と湖があるのだから、「普通のフランス人」が偶然通りかかって金を払ってまで入る、ということは、まず、ない。

チベット文化シンパの人たちがわざわざ来るのだ。

仏教連合の方は、フランスには旧インドシナ系の仏教コミュニティがあるので、ラオス人とかミャンマー人とかベトナム人とかがたくさん来る。アジア色豊かな感じ。ZENも人気だ。

しかし、チベット人は総数が少ないし、もとが移民じゃなく亡命者だから、こういうフェスティバルでも、歌や踊りを披露する側にはいても、参加者のほとんどはフランス人である。

パリのヴァンセンヌの近くの地域などは、移民も外国人も多いのだが、こういうところに集まっているのは、いわゆる生粋のフランス人が目立つ。

冷静に見たら、かなり、独特だ。

一昔前のフランス人のチベット文化シンパは、ブルジョワ出身のインテリ左翼が多かった。

インテリ左翼なので、反教権主義の伝統があり、伝統宗教に批判的で距離を置いたが、実は霊的なものを必要としているタイプ。
宗教や宗教指導者などに憧れを抱いているのだが、いわゆる宗教というものは蒙昧であるという刷り込みがあり、近づくのは教養が邪魔をする。

そこに「宗教じゃない、哲学である」と言われ、「超越神を立てない無神論である」と言われている仏教登場。

しかし、旧植民地国の仏教はなんとなく敷居が高い。で、大乗仏教ということもあって、日本仏教やチベット仏教に向かう。フランスの日本人コミュニティの仏教徒としての連帯は限りなく希薄だから、日本に行って仏教を学んだフランス人が帰って来て「偉く」なったりする。

チベット仏教は、ある意味でもっと魅力的だった。

戦争や植民地にまつわるやっかいな歴史がない。
ヒマラヤの神秘。
大国中国に侵略された犠牲者、悲劇の民。
ダライラマの亡命政府。
輪廻転生の思想。
仏陀の智恵を体現するラマ。

ヨーロッパには、そうやって人々をひきつけてほとんどカルト化したチベット系仏教コミュニティもところどころにある。

そういうところに、昨今のエコロジー・ブームで、「自然に還れ」という感じのやや反動的な教条主義も表れた。これはどちらかといえば保守派。カトリック信徒も少なくない。カトリックの人々は、「仏教は哲学」だと言っているので、チベット仏教にのめりこむのにさして抵抗がない。むしろ、がちがちの保守カトリックではなくて自由で開かれたカトリックだと自負している。

帝国主義時代には「西欧の進んだ文明の高みに黒人を引き上げるのが自分たちの義務」と言ったり、「新」世界の資源を無邪気に搾取奪略したりしていたフランス人たち。

チベットには略奪する見込みがなくて、犠牲者であるチベット人を助けるという、いかにも無償の行為。

住むところを失って世界中にちらばりつつ、文化と信仰心を維持しようとするチベット人の運命は、ユダヤ人のそれと似た構図もある。

ユダヤ人に対する葛藤、迫害、差別、憎悪、偽善、罪悪感などは、教養あるフランス人にとっては抑圧したい原罪にも似たトラウマでもある。歴史、経済、政治、いろいろなファクターが多すぎて、「贖罪」は難しい。

そういうもやもやの一部が、チベット人を支援することで解消されているのではないだろうか?

誰もこんなことは言わないが。

ユダヤ人だけではない。

フランス本土に住む、旧植民地出身のアラブ人や、黒人や、カライブなど海外県の黒人や、中国人らに対する、ぬぐいきれない差別意識への罪悪感が、見方によってはもっとエキゾティックなチベット人を支援することによって、軽くなるのかもしれない。

しかも、他の外国人にひそかに期待するような、「フランスにいるんだからフランス人になりきりたまえ」という、上から目線の「同化」主義じゃない。

チベット人がチベット風であるのは大歓迎。それどころか、ぼくたちフランス人もダライラマの前で五体投地するし、本気で尊敬するし、憧れるし、チベット服も着るし、チベットに同化せんばかりの勢い。

ほらね。

人種主義者じゃないでしょ。

白人優越主義でもないでしょ。

近代文明賛美者でもないでしょ。

植民地主義や帝国主義じゃないでしょ。

平和主義でしょ。

そんな人たちが、このフェスティヴァル会場の一歩外に出ると黒人に差別意識を抱いていても、全然不思議じゃない。

前述したように、一昔前は、

「インテリ左翼だが、宗教と縁を切るには繊細過ぎ、弱過ぎて、また、フランス人の個人主義的競争社会に居心地の悪さを感じていた人たち」

の魅力的な受け皿となっていた「チベット文化シンパ・サークル」に、今は、

「テクノロジーの進化を苦々しく思う保守派や、自然に還れ、的なエコロジー原理主義たち」

が加わったのだ。

黒人もいない。

アラブ人もいない。

中国人もいない。

(ユダヤ人はいる。フランスの伝統社会にもユダヤの伝統社会にも違和感を持っているインテリ左翼ユダヤ人は、こういう場所でほんとうに「フランス的自由平等友愛」の連帯を感じるのかもしれない)

ヒマラヤのヤクの背に乗ってはしゃぐ金髪の子供たち。

みんな和気あいあい。

自由、平等、友愛、平和。

チベットがシャングリラとか桃源郷っていうのは、ほんとだなあ。

30年以上も、フランスのチベット・シンパ・コミュニティの皆さんをウォッチングして来て、思う。

この中では、私は差別されてない。

フランスの他の場所では、中国人もベトナム人も日本人も区別せずに漠然とした差別意識を持っている人は少なくないと思う。

しかし、さりげない「エリート意識」が漂うチベット・シンパのフランス人は、もちろん、ベトナム人と日本人を混同したりしない。しかも私は「日本人コミュニティ」として参加しているわけではない。

どっちかというと「インテリ左翼」の仲間、と思われてきた。

しかし、東洋人だから、仏教のことなどフランス人より詳しそうだし、チベット人とも近そうだ。
ちょっと、牽制。
ちょっと、嫉妬。

そういうスタンスが多かったかも。

私が最初に知り合ったパリのチベット人コミュニティは、次世代、次々世代に移ろうとしている。

感慨深い。

それに対して、最初に知り合った「インテリ左翼」フランス人のチベット・シンパの人々は、

私と共に老いてきた。

子供がいない人、独身の人が圧倒的に多いからだ。

一方、新しいチベット・シンパのフランス人は、保守派や自然志向、エコロジー志向の人が多い。結婚して、赤ちゃんを産んで、わざわざ布オムツを使っているような人たち。

そんな人たちが、大挙してくるから、子供たちが駆け回っている。

新しいところでは、引退した68年世代が、健康問題をかかえたりして、何か心のよりどころを求め、今さら教会などに戻る気はないので、エコロジーで環境に優しそうで健康にもよさそうなチベット仏教はどうかなあ、という感じでけっこう来ている。

自由、平等、友愛。

平和。

和気あいあい。

こちらでは子供たちがはじけるように笑い、
あちらでは初老の女性がチベット健康茶を真剣な面持ちで購入している。

仮設舞台では歌手が、空気をつんざくような高い声で「ルー」という伝統歌謡を絶唱している。

連帯なのか。

これって、連帯なのか。

でも、

とても、

とても、

フランス的だ。
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by mariastella | 2010-09-13 06:07 | フランス
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