L'art de croire             竹下節子ブログ

Potiche、Vincent Peillon、湯浅誠さん

Potiche、Vincent Peillon、湯浅誠さん。

三題噺みたいだが、昨夜から今に賭けて、見たり聞いたり読んだりしたことが、連なって、頭から離れないので覚書。

Poticheは、François Ozon の新作コメディで、1970年代後半を舞台に、ブルジョワの女性が労働問題や政治に目覚める戯曲をもとにしている。

Catherine Deneuve, Gérard Depardieu, Fabrice Luchini という芸達者ぞろいで、ドヌーヴの代表作の一つになるだろうとも言われている。主人公はセゴレーヌ・ロワイヤルにインスパイアされているとも言う。

 このドヌーヴ演ずるシュザンヌは、ドヌーヴ自身と同じく、私とそう変らない同世代。映画の舞台は1977年なので、私がフランスで暮らし始めた頃に近いから、その意味では、映画の中のシュザンヌの娘の歳や状況とも二重写しになる。だからこそ、この30年あまりのフランスの変化や、変わらないもの、そして、若者が30年経って新しい若者世代とどのように連帯できるのか、経験値は力に転換できるのか、などといろいろなことを考えてしまった。、そのせいで、映画の中にちりばめられているサルコジへの揶揄とか、いろいろなカリカチュアの誘う笑いに今ひとつのれなかった。

 フランスのフェミニズムの特異性はやはりその社会政策の歴史と構造にあると思う。
 これについてはまたゆっくり書こう。


 さて、サルコジが週初めにTVで長々とインタビューに答えて、サルコジスムのトーンを捨ててシラク路線になってしまったという印象を一部に与えているのだが、それについて、各派からコメントがいろいろ出ている。

 その一環で、今朝のラジオで社会党の欧州議員であるVincent Peillonがインタビューに答えていた。

 その時、彼の言ったフレーズが、なぜか、頭に残る。

 「フランスの伝統は、政治とソシアル(社会福祉)の分離ですから。」

 つまり、ソシアル路線は、政権交代とは別に継承されていかねばならないものだと認識されているのだ。

 これが、どういうことか分るだろうか。

 それは、「政治とソシアルの分離」 が、
 実は、「政教分離」 とセットになっているということである。

 なぜかというと、フランス革命の直前の100年ほどは、

 都市化が進み、都市労働者や貧困の問題が深刻になっていた。工場労働者というものが生まれ、女性や子供など弱者の搾取が進んだ。
 
 で、この時代に、都市における社会福祉型の修道会というものがすごい勢いで発展した。

 貧困者や病者や独居者を上からと下から両方向で支援するのは、彼らの始めたことだ。

 上からというのは、予算を出してプロジェクトを組んで、教会や修道会がいろいろなものを支給することである。炊き出しから、孤児院、学校、施薬所、施療所、ホスピス、などだ。
 下からというのは、修道院から街に出て、徹底的に、独居家庭やら、ホームレスやらを、個別に、各状況に応じて継続的にパーソナルにサポートすることである。

 当時は、カトリック教会の影響力の大きさを嫌って徹底的な反教権主義に向う中間層が多かった。
 
 私が『無神論』で触れたように、そもそも、カトリック教会の教義やらキリスト教の教義そのものをもう信じなくなっていた人が多い。キリスト教は冠婚葬祭用と女子供の教育用ツールとして残していた人が少なくない。

 そんな中で、社会活動型の修道会は、説教やら宣教やらとは別に、純粋に、社会のセーフティネットとして機能していた。

 ところが、フランス革命が、キリスト教をいったん潰した。

 しかし、活動修道会だの信心会などが張り巡らせていたセーフティネットを無効にするわけにはいかない。

 だから共和国国家は「福祉=ソシアル」をまるごと受け継いだのだ。
 非宗教化して。

 それは徹底していた。教会の結婚式のようにセレモニーができる市民婚のホールだの、子供の洗礼と洗礼親の設定を受け継ぐために市役所での「洗礼」まで作った。司祭は市長に置き換えられた。

 だからこそ、「国家による福祉」は、反教権主義、非宗教主義、政教分離にとって、絶対に手放せない要なのである。

 で、三題目。

 さっき、福島みずほと市民の政治スクールでの、湯浅 誠さんの講演(11月15日)を読んだところだ。


 湯浅さんは、反貧困ネットワーク事務局長で内閣府参与の方だ。

 日本のここ2世代ほどに渡るめまぐるしい変化の分析は、鮮やかだが、かなりつらい。

 こういう部分がある。

 「自己責任論というのは、人々の余裕のなさを糧に大きくなるものです。皆が余裕なくなればなくなるほど、安直な答に食いつきます。考えなくてすみますから。そういう中では、傘の外のすべり台というのは感覚的に「わからない」で終わってしまうということですね。「他に方法があったはずだ」とよく言われるわけです。「家族に頼れたはずだ」「探せば仕事があったはずだ」「ナニナニしたはずだ」というわけです。傘の中にいる人はわからないからですね。あったはずなのにそうならなかったのは、何か本人に問題があったからなんでしょ、という結論の落とし方が一番簡単なんですね。 」

 自己責任論はそもそもWASP的ソシアル(福祉とは、自助努力で成功した者が自分の徳を高めるために慈善するのが基本)に根を持つと私は思っている。

 湯浅さんは、日本の過去にあった国や企業や家庭の傘が次々と閉じられて、社会の闇に落ちていく人は、

「企業福祉にも家族福祉にも支えられない中で、基本的に選択肢はあとは四つしかない」

と言う。

 一つはホームレス状態になってしまうこと、

 二つめは自殺、

 三つめは犯罪、

 四つめは、どんな条件でも働くという労働者になること。

 ショックだ。

 で、解決法についてはこう語る。、

 「解決法は基本的に二つだということになります。一つは制度の光を太く、厚くしてゆくことだと、これがいわゆる、福祉国家的な方向に向かうということになると、例えば、雇用保険の支給期間をもっと厚くするとか、障害の範囲を広くするとか、制度の光を強めたり、広げたりする、というこれが福祉国家に向かうときに諸国が直面する課題です。もう一つはそれだけでは闇の部分が完全にはなくならないので、やはり家族とか友人に代わる、その人に光を、スポットライトを当て続けるような人が必要だということになります、これが寄り添い型伴走型支援と言っているもので、これがパーソナル・サポート・サービスという話で言っているものです。」

 前者は、福祉国家以前的な問題で、これをプレ福祉国家的な課題で、
 後者はポスト福祉国家の課題といえる、
 
 そうだ。

 日本では、高齢化や少子化などの問題が急激に来たので、ヨーロッパなどに比べて対応が遅れていると。

 フランスのことを考えると、前者のプレも、後者のポストも、17,18世紀に都市型の活動型修道会がすでに始めていたことで、「国家による福祉」は、その宗教色を廃止したい一心で「近代国家」の創立理念に組み込んでいかざるを得なかったものだと分る。

 アメリカの建国理念が「自助努力のフロンティア精神」にあったのとはまったく違うのだ。

 で、今のフランスではどうなっているかというと、カトリック系修道会や在俗組織も相変わらず、「ソシアル」を続けている。「その道のプロ」として、国家福祉のプロジェクトに関わることも多いし、「ポスト」の部分であるパーソナルサポートを強化することも多い。

 だから、とにかく国家は「福祉」をやめられない。それが政教分離の基盤でもあるからだ。

 国家にとって、政治と福祉は別、ということはそういうことなのだ。

 特定宗教は否定しても、

 ソシアルが「聖域」

 であることからは、どの政党も逃れられないのである。
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by mariastella | 2010-11-18 22:28 | 雑感
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