L'art de croire             竹下節子ブログ

父と息子モノと母と娘モノなど

最近見に行ったフランス映画のうち、いくつか。

1.父と息子テーマが

 
Dernier étage, gauche, gauche

監督Angelo Cianci

Hippolyte Girardot, Mohamed Fellag, Aymen Saïdi


2.母と娘テーマが

vrais mensonges

監督Pierre Salvadori

Audrey Tautou et Nathalie Baye


3.友達群像をテーマにしたものが


Les Petits mouchoirs

監督Guillaume Canet

François Cluzet, Marion Cotillard, Benoît Magimel


いずれもコメディで、観客は結構笑っていたが私にはあまり笑えなかった。

父と息子テーマがバイオレンスで、母と娘テーマがラブコメでというのはいいとして、どれも今のフランスものなので、距離感が近すぎてリアルで、それが他の観客を笑わせているのだが、私を微妙な気分にさせるのだ。

1は、カビルの移民の父子で、父はまじめに働いてきて、息子にベルベル族の尊厳など説くのだが、実はアルジェリア独立戦争時のトラウマがある。

息子はドラッグの密売の手先をしているチンピラで、どうしようもないバカだ。

この2人が住んでいる公団住宅を差し押さえに来た執行吏を人質に取ってしまうことになり、奇妙な関係が生まれる。

カメラワークは無駄にうまい。いや、無駄ではなく、この映画に厚みを与えている。

この父親の方が、全く同じ世代の同じような境遇の知人にそっくりなのだ。

息子の方は似ても似つかないのだが、北アフリカ旧植民地出身の移民がフランスで暮らすと、次の世代には恐るべき格差が生まれる。

その差は何が作るのだろう。

などということをつくづく考えさせられた。

移民の第二世代では息子は父親にではなく社会によってフォーマットされることの方が多い。娘の方は少し違う。

2は、フランスらしい演劇を見ているようなラブコメディなのだが、ここで、娘の方に恋する男がまさに北アフリカ系移民二世の中の「勝ち組」である。最初は経歴を隠して美容サロンの下働きをしているのだが、実はグランゼコール出身のエリートだと分かり、学歴コンプレックスのあるらしい娘(オードレー・タトゥ。美容室の共同経営者であるキャリアウーマン)は、口が聞けないほどものおじしてしまう。

こういうところにリアリティがあるのは、フランスでは見た目とか移民出身とかではなく、やはり学歴、免状がものをいうエリート社会なのだなあと思う。

男はエリートで文学的教養がある。

娘の方はない。

だから彼から匿名でもらったラブレターの良さが分からない。どこかの年よりが書いたのだろうと思う。これを、別れた父(画家)を忘れられないで鬱になっている母親に転用するところからいろいろな食い違いが始まる。

ところが、この母親の方は、学歴インテリかどうかは知らないが、文学が分かり、芸術が分かるのである。

娘は実はそこにもコンプレックスがある。

フランスには学歴エリートの他に別枠の芸術家エリートがあり、彼らと「一般人」との垣根には、独特の文化的なわだかまりがある。普通は言語化されないが、恋愛やら家族関係の中にそれが出てくると、明らかになる。

そういうことがあらためて確認できて、単純に楽しめなかった。

勘違いして舞い上がった母親が長いラブレターの返事の代わりに簡単なメモを男のポケットに入れる。

そこには

「Je sais qui vous êtes, j'aime qui vous êtes.」

と書いてある。

これを読んだ男は、それが娘のものだと思って、そのシンプルさに感動する。

日本語訳するとそのうまさが全然分からなくなる。

「あなたが誰なのか知ってます。あなたをそのまま好きです。」

とでも言おうか。

男の長文のラブレターに現れる教養と、母親の短いメモの中に現れる感性が対照的だ。

ま、男はインテリなので、芸術家を求めているわけではなく、散文的な娘の方が好きなままなのだけれど。

3は、父と息子でもなく母と娘でもない、フランスの典型的な友人グループのバカンスでの行動観察である。

はっきり言って、みんな少しずつ不幸で、不満で、皮肉屋で、嫉妬深くもあり、手軽な欲望も隠さず、でも、グループで楽しむのは好きで、バカにもなれて、その中で少し個性を強調するのも忘れない。

こっちはみんな franco-français で、そのいいところも悪いところもみんな出ていて、彼らのような人たちも、行動のパターンも、ほんとうに大半のフランス人があてはまりそうだ。だからこそ、観客もまた、自分たちのことを見ているようで泣いたり笑ったりするんだと思う。

しかし私は全く感情移入できなかった。

よくできた映画には見知らぬ国の違う時代の群像を描写したもので観ている人とは何の接点がなくても、特殊が普遍に通じるというか、しみじみと理解でき、共感できるものがある。

でも、この映画に出てくる人たちの行動パターンはあまりにも私の周りに普通にあって、しかも私が忌避しているものなので、距離をおいてしまう。

同じような普通のフランス人のバカンス先での行動パターンをエリック・ロメールなどが描くと、関係性の一つ奥にある普遍的な生き難さへの視線がきっちり見えて別の味わいがあるのだけれど。

フランスのコメディで私がもっと笑えるのは、もっとリアリティがなくて、不条理を再構成したものかもしれない。

こんなものを見るならもっとお涙ちょうだいものの方がカタルシスを得られるかもしれない。

そういえば、日本か帰仏する時に機内で観た日本映画で、『おにいちゃんのハナビ』というのがあった。(監督 国本雅広 / 高良健吾 谷村美月)

兄がひきこもりで妹が白血病なんて、分かりやすい感動ストーリーが想像できて観る気がしなかったのだが、隣にいるトリオの仲間のMが見て泣いていたのに驚いて私も見ることにした。その後でHも見はじめて、彼の方は声を上げて泣いた。

私とHはもしこういう共同体に暮らしていて「みんなと一緒」に何かをしなくてはならないというシチュエーションではすごく不幸になるタイプだ。性格はもちろん、状況も暮らしも何の共通点もないし、そういう意味ではローリング・タイプの感情移入が不可能なのに、とにかくすごく泣けた。その後で1時間くらい私たちはなんで泣いたのか、について3人で話しあった。

その結果、かなりクリアになったのだが、そのことはまたいつか書くことにしよう。
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by mariastella | 2010-12-29 05:39 | 映画
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