L'art de croire             竹下節子ブログ

新年のあいさつの話

私はサイトの掲示板http://6318.teacup.com/hiromin/bbsでフランス語やフランス文化に関する質問などに答えることがあるが、長いフランス生活の中で、当然ながら、フランス人から日本語や日本文化についての質問をされることも多い。

最近聞かれたことがある。

もう何十年も日本人と文書上のつき合いがあるフランス人が、

日本人に新年のあいさつを書く時期について、いつも理解できないままに迷って迷って何十年もすぎた、と言うのだ。

日本人たちからのカードは12月初めから届き始める。

それで、受け取った方は、すでに焦ってしまう。

日本人の私のところに来るカードもそうだ。

私は日本人だからなんとなく分かる。

私が日本にいた頃と今ともし基本情報が変わっていなければ、

欧米人にはメリー・クリスマスとハッピー・ニューイヤーを組み合わせたカードを送る。

それは絶対にクリスマスイヴ前に届かなくてはならない。

しかしこの時期はクリスマスカードが大量に動く時だから、航空便でも時間がかかる。

間に合わせるには12月初めには出さなくてはならない。

ところがたいていはそんなにかからずに数日で着いたりするので、はやばやとカードが届くわけである。

フランスでは新年のあいさつカードはクリスマス前後から1月いっぱいはOKなんだけれど、日本ではそれでは遅すぎるのか、とずっと悩んでいた、とその人は言った。

いやいや、日本人同士だったら、年賀状が12月に届くと大失敗で、「年賀」と書いておいてまとめて投函して、それが一月一日にわざわざ配達されるのだ、

と私は説明した。

フランスでメリー・クリスマスやハッピーニューイヤーにあたる言葉を言うのは、クリスマスおめでとう、新年おめでとう、というよりも、「楽しいクリスマスを」(あなたが過ごされるように願っています、とか「よいお年を」(あなたが迎えられることを願っています)というこちらの気持ちの表明だ。

フランスでは、朝誰かと出会えば「よい1日を」とあいさつするし、月曜か火曜日に会えば別れ際には「よい週を」とあいさつするし、木曜か金曜日なら「よい週末を」、お昼前なら「よい食欲を」と言ったり、昼過ぎなら「よい午後を」など、わりとこまめにヴァリエーションをつける。

だから「メリー・クリスマス」も、直前にしか言わない。まあ12月半ばで、その年はもう会わない人であれば、「よい年末のお祭りを」(これはクリスマスイヴから新年までまとめている)と言って別れることはある。

確かに「メリー・クリスマス」はイヴとクリスマス当日だけで「賞味期限が短い」ので、過ぎれば間が抜ける。だから「メリークリスマス」のカードはイヴ前に出すが、日本と違ってクリスマスと新年でデザインが変わるわけでないので(つまりクリスマスツリーは新年まで有効だ)、日本で言うとクリスマスカードのデザインのものに「Bonne Année(ハッピーニューイヤー)」と書いたものの方が今は多いし、それは1月中なら使えるわけだ。

そこで私はフランス人に説明した。

日本では、正月とは基本的に、年神さまをお迎えする行事。

昔は御先祖さまの霊は盆と正月(陰暦だが)に戻ってきた。

今の日本では、盆には個別の御先祖さまをお迎えし、正月はもっと集合的な年神さまをお迎えするイメージになっている。

で、門松などの依り代を立てる。家を掃除して体も清めて清浄な心身でお迎えしなくてはならない。前の年のものは不浄だから捨てる。正月飾りも燃やす。

そういう年神さまがいらっしゃって互いにめでたい、喜ばしい、と言うのが新年のあいさつのペースだから、前の年に口にすることはできない。

「よいお年を」と言うのは年末に言えるが、正月になってから「よいお年を」と未来形では言えない。クリスマスがピンポイントであるように年神さまの滞在期間もピンポイントだから、「この一年がハッピーでありますように」というフランス型の意味では「よいお年を」の有効期間は短いのである。

そう言えば私の子供の頃は、元旦に起きると、魔法のようにすべてが新しくなっていた。干支の飾りはもちろん、こたつぶとんや座布団や洗面所のタオルやバスタオルや浴室やトイレのアクセサリーが全部新品で、正月のおせちには普段の箸を使わずに、使い捨ての祝い箸を使う。

そんな思い出も、多少の罪悪感と共に語る。

何しろ今の私はそんな「まっさらな気分の新春の祝い」みたいな演出は全くしないし、クリスマス飾りの隣につけ足す正月飾りも前年の使いまわしであるからだ。

しかし・・・

では、今やエコロジーのお手本のように言われている日本人の

「もったいない」

と両立しないのではないか、

とやや疑問がわく。

クリスマスの方が毎年毎年同じ飾りを取り出している気がするが。

フランスではクリスマスには家族、新年のイヴには友人でわいわいというのが基本である。

クリスマスは商業化してはいるけれど、それでも家族の祝いというのを「馬小屋で生まれたイエス」というイメージと結びつけて、馬小屋セットを置く人や質素なイメージと結びつける人は少なくない。

後は食べたり飲んだりが一大事であり、そこのところはフランス文化の根強い部分である。

で、私の結論。

日本人に新年のあいさつのカードを送る時期についてそんなに悩まなくてもいいよ、どうせ外国から届くカードなんだから誰も日本的プロトコルを期待していない。
外人なんだから、ということで時期もデザインもあいさつの文句も不問に付されるよ。

まあ、私の方は日本人なので、日本の知り合いにカードが元日前に届くかどうかを見計らってあいさつ文を微調整しているのは当然である。

こんなことも、多分次の世代にはどうでもいいことになっていくかもしれない。

今週、今年の初レッスンにやってきた生徒たちには全員、会った時に

「 Bonne Année, Bonne musique!!」 と言ってやった。

よく練習してきた中学生に

「Bonne continuation」(この調子で今年もがんばって、という意味で)

と言って送りだしたら、

「Vous aussi」(先生も)

と答えられた。

何人でも何語でも、子供にとっては、あいさつの機微は難しいものだなあ。
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by mariastella | 2011-01-09 03:15 | 雑感
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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