L'art de croire             竹下節子ブログ

中央公論3月号

送っていただいた中央公論3月号を読んだ。

明るい気持ちになれたのは「復活!理系大国ニッポン」という特集。どれも楽しい。

たった一つ、せっかく楽しいのにがっかりしたのは例の比喩があったことだ。

それこそ「文系」の人は不用意に連発するが「理系」の人でも言うんだなあ。

省エネでエコロジカルな日本の技術を世界に輸出しよう、というのはいい。

そのシンボルとして「こたつ」を出して、「新こたつ文明」と呼ぶのも楽しい。

でも、

欧米人がこたつを発明できなかったわけは生活習慣だとして、次のように解説される。
 
***

(欧米人は)基本的に狩猟民族であるから、夜でも「窓の外を食べ物である鹿が通れば、弓矢を持って飛び出す」という感覚を、文明の底流として持っている。そのために、室内でも靴を脱がない。/ 日本民族は、水田耕作を生業としてきたので、その日の農作業が終われば、夜の間にやることはないので、履物を脱ぎ、ゆっくりと「こたつ」に入ってくつろぐことができる。/ 日本民族的な生活の方が、いつでも獲物を探している西欧文明的な生活よりも、幸福なのではないだろうか。(P88-89)

   ***

これではあまりにも突っ込みどころが多いというものだ。

現在でも狩猟を主として暮らしている民族はいるが、熱帯地域なら、そもそも「こたつ」はいらないのでは・・・とか、

夜行性動物を狩るなら昼間休むだろうし、まあ人間の狩りは目がきく昼間が多いと思うので、夜になったら休むのでは・・・とか、

窓の外を鹿が通ってから飛び出してももう遅いのでは・・・とか、

もちろん、ヨーロッパ人も農耕定住に入ってから文化を蓄積するようになったので、弥生時代以降の日本人と同じではないか・・・とか、

例の「ヨーロッパ人は肉食だから草食系日本人より残虐だ」的な論と同じくらい変だし、間違っているし、リスペクトを欠いているのではないだろうか。

面白おかしい文脈ならもちろんそれでもOKかもしれないけれど、せっかく「理系日本」の素晴らしさを鼓舞している話題なのだから、気持ちをそがれた。

私は、日本人は優秀だと思うし、欧米人と差異化が可能な技術を生むことにも長けていると思うので、そういう話の時にこのようなステレオタイプのレイシズムが出てくると残念だ。

この号にはもっと深刻な、私を暗澹とさせる話題もある。

ジェフリー・ゲルトマン「永遠に戦争が続くアフリカの現実」

だ。

ニューヨークタイムズの記者が書きそうな偏見も入っているが、要するに今のブラック・アフリカは、暴力のための暴力から抜け出せない、という話なのだ。

「イスラムは民主主義と両立しない」式の言辞は、今のアラブ世界革命で覆されつつある。それによって、欧米の「リアルポリティクス」民主主義の欺瞞が浮き彫りになるのは痛快ですらある。

しかし、このブラック・アフリカの現状を見ていると、そのうちに、白人から「文明の衝突」よりも「人種の衝突」と言いだされかねない。

ブラック・アフリカは、イスラム教も多いし、土着宗教もあるし、過去の宗主国の遺産であるキリスト教も多い。だから、「宗教の差」という言いわけはきかないからだ。

今、この瞬間も、ブラック・アフリカで虐殺される弱者や虐殺者に仕立て上げられる子供たちの問題をとどのように取り組めばいいのか、というのは今の人類の共通の最大の問題ではないだろうか。

もちろん、すべて過去の帝国主義者たちが悪い、とか、欧米から利を得た独裁者たちが悪いとか、いうことだけでは片づけられない。

誰でも、時代や環境や状況によって簡単に「鬼畜」になったり「非人間」になったりする。鬼畜とか非人間というのは人間の特性かもしれないと思えるくらいだ。

しかし、どんなにひどい状況でも、極めて少数だが、人道的に「ぶれない」人というのは、存在する。

「存在する」のだ。

(人間にいいように使いまわされる神が存在するより心強いかも。)

このことはまた別の折に。
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by mariastella | 2011-02-26 01:05 | 雑感
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