L'art de croire             竹下節子ブログ

アラブ世界で起こっていること  その8 サルコジ

さっき(3/10夜)ニュース番組を見て驚いた。

サルコジ大統領がリビアの革命側のリーダー(その一人はカダフィの政権とも関係が深かったともいう)とエリゼ宮で話し合い、フランスは正式に革命政権をリビアの正当な政権と認める、カダフィの空軍基地をピンポイント爆撃するのも辞さない、と約束したのだ。

おりしも明日、EUがリビアに対する態度を検討することになっていて、ブラッセル入りしているフィヨン首相や、EUの外務担当大臣も「寝耳に水」でショックを受けていた。スタンド・プレーとか勇み足というにはことが大きすぎる。

2/23のル・モンド紙に、フランスの元外交官ら現役外務官僚たちが匿名でサルコジ批判の記事を発表していた。サルコジが外交面ですることなすことはすべて衝動的で、素人策で、一貫性がない、というのだ。

彼らは、サルコジが、大統領就任時の演説で「地中海連合」の構想を語った時からすでにあわてていた。

「地中海連合」は、地中海に面していないドイツを仲間外れにしたいという受け狙いだった。それについて、地中海の南岸の二本の柱はベンアリとムバラクだなどと平気で言っていたのだ。

これに対して、現地にいる外交官らは、軍事独裁者についてのかなり厳しい情報をサルコジに送り続けていたらしい。彼らは、もしもウィキリークスがフランスの公電もリークしてくれていたら、自分たちがアメリカに劣らず辛辣に批判していたことが証明できたのに・・・と言っている。

今回のアラブ革命の先駆けとなったフランス語圏であるチュニジアの情勢を読むのも必要不可欠だったのに、サルコジもサルコジお抱えのMAM外相もそれをせずにぐずぐずしていた。

さすがにこれはまずかったと思ったサルコジは、今回は出遅れずにということで、目立とうとして、早々と「世界で最初にリビア革命政府を認めた国」の名乗りを挙げることにしたのかもしれない。

しかし、EUでの合議を待たず、リビアとはより関係の深いイタリアやドイツなどの体面や思惑を考えずに一方的にこんな宣言をすることに、全体として意義があるかどうかは大いに疑問だ。

同じことはメキシコのフロランス・カセ事件(フランス女性が子供誘拐と武器所持の共犯でメキシコで逮捕断罪された)の時にもあった。
60年の懲役が確定したこの女性をもし本気で救いたいと思ったなら、水面下でいろいろな策を練るべきだった。それなのに、「今年のフランスにおけるメキシコ年はフロランス・カッセに捧げる」などとテレビではしゃいだから、逆にメキシコ側からボイコットされてしまうという醜態となった。

外交には長期的な展望や広い視野が必要だ。

そのために外交のプロであるブレーンの意見を聞く、という基本的なことをせずに、目先のメディア効果ばかり狙うこの大統領が、とにかく早く任期を終えてくれないと、フランスはアラブ・アフリカはもちろんヨーロッパからも嫌われそうだ。

あの冷戦時代ですらNATOから撤退することで独自の存在感を維持していた過去のフランスの面影はない。

サルコジ路線と対照的なのはむしろヴァティカンやカトリック団体かもしれない。

イランでサキネ・モハマディ・アシュティアニという女性が姦通罪で石打ちによる死刑を言い渡された時に、息子がヴァティカンに助けてくれと訴えた。
この女性は結局助かったのだが、その時ヴァティカンは、教皇ベネディクト16世がこの問題を注視しており、外交ルートを通じて介入する可能性も排除しない姿勢だと述べたが、実際にしたことについては一切表に出さなかった。ヴァチカン広報当局は、教皇は過去にも人道問題について当事者ではない国から要請を受けた場合に外交ルートを通じて非公式に介入してきたといっている。特に死刑には完全に反対の立場であることは周知の事実だ。

教皇は世襲制でもないし、普通選挙で選ばれるわけでもなく、カトリックには領地も資源もなく、人気とりやポピュリズムを必要としない。理念に忠実に従える。水面下の外交が成功した時に、その「成果」を自慢してイメージアップを図る必要もない。

もう30年以上も前に、ソウル大学に留学中の在日韓国人のK君が北朝鮮のスパイといういいがかりで逮捕されて死刑の判決が下った時、私はパリからローマ教皇とロンドンのアムネスティ・インタナショナル(当時はまだ日本では知名度が低かった)に手紙を出したことがある。

その後、長い時を経て韓国の民主化と共にK君は釈放されたのだが、死刑が執行されぬまま来たのは、アムネスティのおかげかなあと漠然と思っていた。
しかし今考えると、韓国は日本よりはるかにカトリック人口が多いし、ヴァティカンが実際に動いていてくれたのかもしれない。

一方、アラブの軍事独裁国の実態についても、ACAT (拷問廃止キリスト教アクション)の2010年のレポートは赤裸々な報告をしている。中東と貿易しているわけでもないから、ビジネス上の配慮もせずにすむ。

つまり、カトリックは、

特定の人間を救うためには水面下で慎重に動き、それを公表せず、

多くの人を救うためには大声で告発したり正論を吐くなどしているわけだ。

これは、

ひとりの自国民を救うと称してテレビで騒いで話をこじらせ、

武器を売り石油を買うためには軍事独裁国で起こっていることは見ないふりをする、

というサルコジ路線と真逆ではないか。

まあ、自国民の救助にすら熱心でなく、外交センスもないような国もどこかにあるようだが・・・

今回のリビアで、「正義の空爆」を辞さないサルコジの挽回策を突然知らされたMarly(サルコジを批判した外務官僚たちが話し合ったパリのカフェの名で、彼らはそれをペンネームにしている)が何というか、ぜひ、聞いてみたい。

(そう言えばサルコジは、最近、イスラム牽制のためにカトリックの巡礼地を訪れて「カトリックがフランスのルーツであるのは歴史の事実だから」と、鬼の首をとったように言っていた。「歴史上の事実」なんて無数にある。そのうちのどれを取り出してどういう文脈で誰がどのように言うかが問題なんだよ。「カトリックがフランスのルーツである」ことが間違いなのではなくて、「この時期にフランスの大統領がそういうことを得意満面で言う」ことが間違っているのだ。2003年頃はブッシュの顔を見るのも嫌だったが、この頃のサルコジの表情を見るのはもっと気分が悪い。015.gif)
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by mariastella | 2011-03-11 08:43 | フランス
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