L'art de croire             竹下節子ブログ

ルルドの奇跡の起こり方 その4

他の場所でなら今でも臨終を連想させる緊張感のある「病者の塗油」も、ルルドの聖域内では「日常」の光景だ。

その秘跡を受けない人たちも、病んでいる人や苦しんでいる人、障害のある人たちが次々と励ましを求めて列をなす様子を見ると、人間の非力さや人生のはかなさや健康の危うさの実感が腹の中にずんと投げ込まれたようになり、言葉を失う。

自分や自分の近い人が病や痛みなどを抱えている人ならば、来し方行く末の不安に締めつけられるかもしれない。

セレモニーが終わりに近づいた頃だった。

セルジュのすぐそばにいた若い女性が、突然、しゃくりあげるように泣きだした。

いろいろな思いが交差して感極まるせいか、ようやく究極の慈母である聖マリアの聖地にやってきたという安堵感でそれまでの緊張が一度に緩むのか、ルルドで泣きだす人は少なくない。

全体としては、不思議なほどに明るい非現実的な場所であるのに、いや、明るさと善意と信頼の漲る場所であるからこそ、痛みや苦しみや諦念や絶望も、抑圧を解かれて涙となってほとばしることがある。

隣で声を立てて泣き始めた若い女性の苦しみが何であるかはセルジュには知る由もなかった。

思わず彼女を両腕にだきしめて、セルジュは慰めの言葉を探した。

「マリアがここにいるよ、ぼくたちと一緒に。ぼくたちを見ている。しっかりして、大丈夫だよ」

それは、

その時、

起こった。
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by mariastella | 2011-04-14 00:01 | 宗教
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