L'art de croire             竹下節子ブログ

ルルドの奇跡の起こり方 その11

「奇跡の治癒」から1年後、セルジュはルルドの医学局から呼び出されて、微に入り細に入る、山のような質問に答えなくてはならなかった。

それはまるで、セルジュの体験したことと違うことを言わされようとしているかのようだった。

セルジュは、聖母御出現を見たベルナデットに対して行われた執拗な尋問のことを思い出した。

嘘ではないか、幻覚ではないか、錯覚ではないか、などの疑いの前で、ベルナデットも、

「私の見たり聞いたりしたことと反対のことを言わそうとしても絶対に無理です」

と踏みこたえたのだ。

カトリック世界の奇跡や聖性の証明の手続きには、昔は「悪魔の弁護人」と言われる役があったように、まず、「それが嘘だと決めてかかる」ことでその真実性の強度を試す伝統がある。

実際、そのせいで、ルルドで公式に認められた「奇跡の治癒」の数は非常に少ないのだ。

多くの治癒例がこの検証の試練に耐えられなかったというよりも、申告すること自体に心理的バリアができるからだ。

2009 年にルルドの医局に検証手続きに出頭(?)した人は38 人、2010 年は33人だ。

事実上、毎週教会に通って教区の活動に参加して、司祭といっしょにルルドへ来ている人に「それ」が起こらない限りは、奇跡的治癒の申告の敷居は限りなく高い。

奇跡が認定されるまでには少なくとも一度はルルドの医局に戻って審問を受けなくてはてはならないし、さまざまな書類を用意しなくてはならない。

これまでに認定された68人のうち55人がフランス人だったというのも、その手続きの複雑が大きな理由だろう。

一方、不治の病や難病でなくても、カトリック信者でなくても、個人の巡礼であっても、「それ」は、起こっている。

私は個人的に、2人の日本人の「奇跡の治癒」の例をご本人とその父親から聞いたことがある。

2人とも「教会」やカトリック信仰とほとんど縁のない人だった。

正直言って、このセルジュのケースよりも劇的な証言だった。

「だからルルドでは本物の奇跡が日常的に起こっているのだ、すごい、」とかいう話ではない。

私にとって奇跡だと思える治癒だとか、今の医学では説明できない治癒などのケースは、絶対数はごく少ないにしても、多分、いつでも、どこでも、起こってはいるのだろうという話である。

もちろん、ルルドだとか、各種のご利益のある巡礼地だとか、聖地だとかには、病気や障害で苦しんでいる人が集まる率が多いので、病院以外では、そういう例外のケースが比較的多く起こるという可能性はある。

あるいは、今の病院では、投薬や治療法が管理されているので、「不思議な自然治癒」に至るチャンスがむしろ制限されているかもしれない。

でも「不思議な自然治癒」を得る確率など、どちらにしてもすごく少ないのだから、たいていは病院での医薬による治癒を目指すことになる。

では、病院では「もうこれ以上のことはできません」と言われた時点で祈りや巡礼に頼るものか、病気の最初から心理的アプローチやイメージ療法を併行して行う方がいいのだろうか。

これは、いわゆる「代替療法」だの「サプリメント」だの各種「健康法」とのつきあい方とも似てくる。

では、普通の「不思議な自然治癒」や「奇跡の健康法」や「奇跡の薬」と、「ルルド」との決定的な違いはどこにあるのだろう。

治癒を得た人の両肩にかかる使命感とか責任感とかなのだろうか。

(続く)
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by mariastella | 2011-04-25 01:44 | 宗教
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