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L'art de croire             竹下節子ブログ

最近のニュースや読んだ本の覚書

コンサートの打ち合わせなどであわただしくしている間に、世界ではいろんな出来事があった。

前教皇JP2の列福とか、ビン・ラディン殺害とか。

この二つはほぼ同じ日の出来事だったが、対照的だ。

謝罪とか贖罪とか赦しとかを実践し続けてきたJP2と、迷わず「復讐」路線を貫徹したアメリカと。

B16によるJP2の列福は、

「ドイツ人から列福されるのは全ポーランド人の夢」

なんてジョークも出てきたほど、20世紀のヨーロッパ史の一区切りになりそうな出来事だった。

JP2の生き方は、彼が、反ユダヤ主義者では毛頭なかったにしろ、戦時中に「レジスタンス」の立場をとらなかったことに対する自責の念に根ざしていた。
カトリック教会が全体主義に対する確固たる叛旗を掲げなかったことについての自問が、JP2をJP2にしたのだ。
エディット・シュタインやマックス・シェーラーの与えた影響は大きい。

週末はアルプスに行っていたので、エヴィアンのラウンジで列福式の中継を見ていて、JP2の聖母崇敬の姿をながめながら、「聖母」というキャラクターはやはりキリストに向かう強力な道なんだなあ、と思った。
宗教的な意味でもなくて、もっと単純に、母を亡くした子供だったJP2が「無条件の愛」のモデルを、イエスという息子に先立たれた聖母に求めたことが、しみじみと納得できる。

もう一つのビン・ラディンのニュースの方は、

「何でこのタイミングで ?」

という分析の方に興味がある。

逮捕じゃなくて殺害したのは、このことがグアンタナモとセットになっているから当然だろう。
アメリカは国際刑事裁判所憲章を批准していなくて、「テロリスト」は「自分ち」で普通に拷問などしているのだから、ビン・ラディンだけ「逮捕」しても意味がない。今風の話題で言うと原発が核兵器とセットになっているのと同じだ。片方だけ取り上げても意味をなさない。

それを言うならコートジボワールのバグボのその後も不可解である。5月2日にコフィ・アナンが訪れて、バグボはワタラ(新大統領)の正当性や権威に抗議しているという印象を与えなかった、などと証言しているのだ。これってかなり変な印象を与える話ではないだろうか。

ビン・ラディンの殺害で喜んでいるアメリカ人の姿を報道するメディアのやり方も下品だ。第一次湾岸戦争の後、参戦したフランス軍は地味だったが、アメリカの戦車はNYで凱旋パレードをして、紙吹雪が舞い、歓声に包まれたような映像が流れたことがある。フランスではあり得ない光景だ。

今度のも、その映像だけ見てると、「ワールドカップで優勝でもしたんですか ? 」と言いたくなる。
これがほんとなら、広島の原爆投下が「成功」した時だってお祭り騒ぎをしたんじゃないかと思えてくる。(実際「敵の指揮官」殺害の正当性について、第二次大戦での日本軍との例が挙っていたなあ。)

「ワールドカップで優勝」と言えば、フランス中がお祭り騒ぎになった1998年のワールドカップ優勝時のチームにいたローラン・ブランが今「人種差別発言」で大変なことになっている。「ブラン=ホワイト」って名も不運だ。

「体力があって動きがいいのはみな黒人だ」と開き直っている人もたくさんいる。人種別の「遺伝子的な強み」を考慮せずに機会均等で競わせたら、100メートル走のように本当に黒人しか残らなくなりそうだ。
「男女別」の競技は「遺伝子の差」を考慮して普通にあるが、「人種」別ではヒストリカルに見ても政治問題に直結するとなると、真の解決は「混血」がデフォルトになる時代にしか訪れないかもしれない。

ともかく、ビン・ラディンの「征伐」が、アラブ世界で即「反アメリカ、反欧米」のような反応を招かなかったのは、やはり去年の末から続く「アラブの春」のおかげだ。

ビン・ラディンが「欧米と結託したイスラム国の独裁者」を倒せとイスラム原理主義者たちを煽ったのにも関わらずいまいち成功しなかったのが、結局、「反米」ではなく「民主主義」や「自由」を掲げる民衆が独裁者を倒していっているというのが現実だ。

「各論」を見ると暗くなるし圧倒されるが、「総論」を長期的にみると、やはり「自由を連帯を求める欲求」が世界を少しずつ変える、と思いたい。

それが、このところ、原発事故がらみもあって、考えはペシミスティックな方に流れがちだった。

気分を変えるために、オプティミズムの方にバイアスのかかった本を読みたくて

パリとアルプスを往復したTGVの車中で、

Bruno Tertrais « L’apocalypse n’est pas pour demain – Poue en finir avec le catastrophisme »DENOEL『アポカリプスはまだ来ない-カタストロフィズから抜け出すために』

というのを読んでみた。

けっこう微妙だった。

西洋的近代やら民主主義は、今の世界の情勢がよい方向へと向かうことについて本当に有効なのかどうか、を考えたかったのだけれど・・・

後にも2 冊の本を持っていって読んだ。

Frances A.Yates の『科学とヘルメス学』と
Giordano Brunoの『Des Liens』。

共にEditions Allia。ここの文庫シリーズは読みやすくてすぐれものだ。

フランセス・イエィツを読むのは久しぶりだ。昔は迷宮のように思えていたのが、今はすっきりよく分かる。

人間はミクロコスモスだと見なす「ホーリスティック」なイメージはむしろ人間の「傲慢」に依拠していて、今や「西洋近代」の悪弊のように批判されることすらある「機械論的」世界観の方が、むしろフランシス・ベーコン以来の集団研究志向の「謙虚さ」の結果ではないだろうか。

で、ホーリステッィクな科学は地球にやさしいとかハーモニーがどうとかいうのでなく、「人間=神」という「思い上がり」であるゆえのジャンプ力で、科学におけるブレイク・スルーを生んだりするのだと思う。

これらについてはまた別のところで書くつもりだ。
by mariastella | 2013-06-20 22:26
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/

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