L'art de croire             竹下節子ブログ

JP2、ロイヤル・ウェディング、ビン・ラディン

昨日の記事で、先週起こった事件に関して、前ローマ教皇JP2とビン・ラディンが対照的だと書いた。

実は、もう一つの出来事、英国のロイヤル・ウエディングとJP2の列福も対照的だった。

ロイヤル・ウェディングでのイギリス人の熱狂ぶりを見て、私の感じたのはソ連時代の「宗教はアヘン」という言葉だった。

「セレブはアヘン・・・」と、そう思ったのだ。

それで、その後の、アヘンの本家であるはずのヴァティカンの列福式での人々の熱狂(というよりは感激)ぶりを見て、こっちの方はアヘンではなくなったなあ、と思った。

30年前のチャールズ皇太子とダイアナ妃の頃と比べて、英国はすっかり変わったという事実がある。
リーマン・ショックまで、アメリカと共になりふり構わず市場経済至上の新自由主義を突っ走ってきた結果、イギリスでも、貧富の格差が大幅に広がった。

落ちこぼれた人が生きのびるためにあがいている一方で、勝利者は、罪悪感なしに莫大な浪費生活を平気で誇示するようになった。

そして、ついには、そのようなリッチな人々の「浪費ぶり=セレブな生活」情報自体が、庶民の「消費」に提供されるようになったのだ。

高度資本主義社会では、宗教はすでにアヘンではなく、まさに、「セレブ」がアヘンになったわけである。

トニー・ジャットの『荒廃する世界の中で』(みすず書房)を贈っていただいて読んでいたら、なんと、18世紀のアダム・スミスがすでに

「人間の大多数を占める大衆は、富や名声の礼賛者、崇拝者であり、しかもはなはだ驚くべきことに、彼らの大部分はしばしば欲得ぬきで、礼賛し、崇敬しているのだ」(『道徳感情論』)。

と言っていたらしい。

イギリス人大衆が、素直に無邪気にロイヤル・ウェディングに熱狂しているのは、まさに「欲得ぬき」の自然な崇敬の発露に見えた。

それに比べると、カトリック世界でのさまざまな聖人「崇敬」などは、たいていは、人々の祈願や悲願とセットになっているのだから、「欲得抜き」どころではない。

では、「欲得ぬき」のセレブ崇敬のどこが悪いのかというと、これもアダム・スミスがすでに言っているように、ずばり、

それが、セレブの反対の「貧しい卑しい境遇にある人々」を大衆がこれも「自然に」、無視したり蔑んだりする傾向と表裏一体になっている

からである。

それに比べると、JP2の列福で感動した人々は、「セレブ」を崇敬したわけではない。

「ローマ教皇」という地位は巨大宗教のトップとしてのシンボリックなオーラを伴っているとしても、あるいはヴァティカンが莫大な財産を持っているとしても、そのトップたちは一代限りで子孫も残さない。

JP2も、「華やかさ」どころか、誰が見ても気のどくだと思えるほどに弱って痛々しい姿で最後まで働いていた。

列福式のヴァティカンで感激していた人々は、この教皇が「ローマ教皇」というセレブだったから礼賛したのではなく、明らかに、JP2となった一人の人間を、人格として、その生き方を通じて崇敬していた。

JP2には、レーガンやサッチャーなど、新自由主義路線を発車させた英米の首脳と力を合わせて「共産主義陣営」を倒した、というイメージがあるが、その方向性は真逆だった。

旧共産国陣営でイデオロギー支配によって個人が押しつぶされていたことに対して戦ったJP2は、「自由主義陣営」で少数の勝ち組が富を独占して貧しい多数を押しつぶすことにも、同じように戦ってきたのだ。

若くて美しくて富と名声の頂点にある英国王室の新カップルを、人々は「幸せ」の象徴として祝福した。

一方で、病を抱え、年老いて、話すことも立っていることも苦しくなった姿をさらして死んだJP2を、カトリック教会はやはり、「幸せ」な人、つまり、神に祝福された「福」者だと宣言した。

人々もそれを祝福した。

こうして見ると、後者は前者の解毒剤のようでもあり、絶妙なタイミングで発信された出来事だったという気もする。

イスラム過激派のテロリストはどうだろう。

英米が原動力となった自由競争至上主義の弱肉強食の世界で、「先進国」の勝ち組たちが「弱い立場の人々」の人格、尊厳を無視してきたことが、イスラム過激派やテロリストたちによる「反欧米」ドグマを確立する一原因となってきたことは疑いない。

「テロとの戦い」との勝利は、軍事力によってではなく、弱者の人格権への感受性を取り戻すことによってでしか、本当には、得られない。
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by mariastella | 2011-05-09 02:06 | 雑感
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