L'art de croire             竹下節子ブログ

幽霊屋敷と悪魔祓い

2010年、64歳の作曲家ジャン=マルク・マリオルと53歳の妻シャルロットは、フランスを離れて憧れのイギリス地方都市に居を構えることにした。

家賃の高いイギリスで、75000円ほどで、建物の2階、3階と屋根裏が続いたアパルトマンが見つかった。

マンチェスターの近くのFrodshamの 26 Church Streetである。

録音スタジオにする部屋に高価な機器を設置したので防犯カメラもとりつけた。

それなのに、平安な生活は、たったひと月しか続かなかった。

ある夜、寝室のドアをノックする音に起こされた。外には誰もいない。

次にシーツが浮き上がった。

肝をつぶした夫婦は近くのホテルに避難した。

その後も、階段に口笛の音、屋根裏から赤ん坊の泣き声、浴室にまで充満するパイプ煙草の匂い、と、典型的なポルターガイスト現象が続いた。

その建物は1869年にパイプ・スモーカーのアイルランド人が建てたもので、妻はその家で産褥死して、生きのびた子供も数年後に階段から転落死したらしい。

20世紀初めに地元の肉屋が買い取り、一階を店にしたが、1970年代に子孫が分割して、2階から上が貸されることになった。それ以来、歴代の店子はポルターガイスト現象を体験してきたそうだ。

しかしイギリスという国は「幽霊屋敷」と親和性があるのか、それほど話題にならなかった。

ところが、デカルトの国フランスからやってきた夫婦が騒いだことで、タブロイド新聞やテレビ局もやって来て大変なことになった。

ピアノを弾くと10個ほどの光る円盤が現れてくるくる回る様子が防犯カメラに映っている画像も報道された。

フランスはカトリックの国でもあるから、夫婦は地元のカトリック教会の司祭に相談し、緊急の悪魔払いのセレモニーもしてもらった。

その結果、司祭は、自分には何もできないこと、その家から去る方がいいことを宣告した。

時々安眠を確保するために1年で60万円以上のホテル代を費やした後で、夫妻は今年の4月末にとうとうイギリスから引き上げることになった。

この話が「本当」かどうかは別として、このような現象に悩まされたと信ずる人々の語る「現象」が驚くほど似ていることは確かだ。

カトリックの聖人たちにもこういうポルターガイスト現象に悩まされた人は少なくなく、みなそれを悪魔による試練だと捉えている。そういう人たちは「悪魔」に持ち上げられて床にたたきつけられたりさえする。煙草の匂いなどではなく腐臭悪臭がたちこめる。

しかし聖人ではない「普通の人」の身に起こる「幽霊屋敷」でのポルターガイスト現象は、迷惑であっても、気味悪くても、直接の害は与えない。「悪魔」とは別種のものであるらしい。

いわゆる幽霊なのか、トリックスターなのか、というところだ。

だから、悪魔祓いのセレモニーで駆使される聖水だとか聖霊や神の言葉にもあまり反応しない。

「逃げるが勝ち」という結果になる。

聖人を試そうとか誘惑しようという挑戦や、悪意のもの、禍々しいものには悪魔祓いが効を奏する余地があっても、場に憑いている地縛霊だの怨念や悪戯のようなものは、神に敵対するタイプの悪魔とは別のロジックで生きているらしい。

それでも、戦国時代に漂着したポルトガル人に日本人が仮の宿として空家の幽霊屋敷を提供したら十字架で結界を作って追い払ったとかいう話もあるし、場に憑く霊だの化け物だのトリックスターだのをシャットアウトする智恵は古今東西の言い伝えに出てくる。

ヨーロッパには都会にも古い建物がたくさんある。

私も築130年の建物に住んでいる。うちには何も起こらないが、ポルターガイスト現象や幽霊の姿を見た人の体験談というのは身近に聞いたことがある。

真相はどうあれ結果として悲劇につながった例もあるのだが、悪魔祓いにも引っかからないような軽めのユーモラスな霊の話は、いつの世も人々を惹きつける。
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by mariastella | 2011-06-03 23:53 | 雑感
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