L'art de croire             竹下節子ブログ

Brown Babies

第二次大戦後のドイツで黒人のGIとの間に生まれた子供たちのドキュメンタリーをArteで見た。

私の親戚に、生後すぐにフランス人の養子になった「ボッシュの子」と結婚した人がいる。つまり、フランスがドイツに占領されていた時のドイツ兵とフランス人女性の子供だ。養子先は裕福な商家で、養子の彼が唯一の子供だったので、贅沢に育っていた。金髪碧眼でがっしりした感じは、何となく「ボッシュの子」とはこういうイメージなんだろうという気もしたが、フランス人としてまったく違和感はない。

それでも、部外者の私にまでその出自が伝わるのだから、占領軍と非占領国の女性との関係そのもののインパクトは残り続けるのだろう。

「brown babies」 とは、黒人とドイツ人女性とのハーフだ。

第二次大戦後の日本でも占領軍との間に生まれた「混血児」の話は少なくなく、沢田美喜のエリザベス・サンダースホームの名などは私にもなつかしい(私の父が沢田美喜さんと仕事上の関係を持っていたからでもある)。GIベビーともよばれたらしいが、やはり黒人とのハーフのイメージが強い。詳しく知ったのは、もう30年以上前に読んだ有吉佐和子さんの『非色』(1964)という小説によってだ。

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ヒロインは勤め先の駐留軍キャバレーで知り合った黒人と結婚するが、夫は娘のメアリを白雪姫と呼んだ。やがてアメリカへ渡り、日本では占領軍で羽振りがよかった夫が本国では差別されていることを知り、黒人の下にプエルトリコ人がいることや、白人の大学教授と結婚している日本人の家庭で働いて、その白人がユダヤ人として差別されていることを知るなど、複雑な差別と偏見の構造や心理が書かれている。

日本人と黒人の間でさえそうだから、アーリア人優生思想を掲げていたナチスのドイツで、見た目は白人と変わらないのにホロコーストの対象となったユダヤ人どころか敵国の黒人の子供を産んだドイツ女性への風当たりはすごいものだったろう。

アメリカはヒトラーの人種差別を宣伝することで黒人の参戦モティヴェーションを高めたようだが、実際多くの黒人兵がドイツにいたらしい。アメリカのGIたちには、ドイツ人とつきあってはならない、友人関係をもってもいけないという禁令が1945年に出ていた。にもかかわらず、1946年には「混血児」の出生が相次ぎ、禁令も解除されざるを得なかった。子供の母親と結婚したGIもいたが、みな朝鮮戦争に送られることになった。アメリカの軍隊内での人種差別が撤廃されたのは1948年で、本国では、1964年まで公的な人種差別が続いていた。

つまり、アーリア人の純潔思想に染まり、「教会、キッチン、子供」のみっつのKを守っていたドイツ人女性が、アメリカでさえ「二等国民」と見なされていた黒人の子供を産んだわけなので、風当たりは当然厳しかった。

驚くのは、アメリカの黒人女性ジャーナリストが提唱して、ブラウン・ベビーズというプロジェクトを始動、新聞紙上で養親を募り、1951年から、7000人ものハーフの子供たちが、ドイツからアメリカの黒人家庭に送られたことである。

その女性は自分自身も12人もの子供を養子にした。

男の子などには、同じようなドイツのブラウン・ベビーばかり5人を養子にした家庭の農場で奴隷のように働かされたという例もある。彼らは「恥の子」として労働力を搾取されたわけだ。

母親の中にはもちろん子供と引き離されるのを拒んでいた者もいたが、生活苦から、子供を手離してドイツ人と結婚する人が多かった。
多くの子供たちは1946-7年に生まれ、1951-3年ごろにアメリカに渡っているので、すでに環境の変化を感じる歳だった。

なかには、「黒人」女性ではじめてのテレビ・キャスターになったドリス・マクミロンという有名な人が出て、この人はミュンヘンにまで母親を訪ねていった。28年ぶりの再会ということで新聞記事に取り上げられたことで、母親は人種差別者からの脅迫を受けるようになったという。

母親はもう亡くなっていたが白人の異父妹や姪と出会った女性もいる。彼女らは異父姉の存在を知っていたがそれはタブーの領域だった。父がプエルトリコ人だったらしいことも分かった。アメリカから調査してドイツまでやってくるような人は裕福な人が多いから、そんなハーフの異父姉に出会った白人の妹が「私もアメリカに行きたかった」などとしみじみ言うシーンもある。

フランスには、「島の人」という表現があって、カリブ海にある海外県のグアドループなどの黒人を指す。サッカーのナショナル・チームなどにいる黒人はたいていこれらの「島の人」だ。フランスでは養子縁組も多いが、たいていは白人のカップルで、ハイチやアフリカの黒人の子供を抵抗なく養子にする。

人種差別法があった1950年代のアメリカでは、黒人とのハーフの子供は「黒人」であるから、「黒人家庭」の養子になるしかなかった。

21世紀に黒人のハーフであるオバマ大統領が生まれるとは誰も想像できなかっただろうが、そのオバマですら「初の黒人大統領」という言い方ばかりされた。同じ人がもしケニアで大統領になったら決して「初の白人大統領」とは言われないのは明らかだ。

私の音楽の生徒にも「島の人」と白人フランス人女性とのハーフの子供がいる。子供たち自身はどちらかというと黒人のアイデンティティを持っている。女の子の似顔絵をマンガ風に描いてやった時、「これじゃ白人みたいだ」とコメントされてあわてたことがある。日本のマンガの世界では、少なくともモノトーンなら、白人と日本人の区別は必要がない。一つの画面に両方出てきて違いを強調する時は別だが。黒人をどう描くかという場面は想定したことがない。今や自粛の対象となる「ちびくろサンボ」だとか手塚治虫のマンガの黒人くらいしか思い浮かばないのだ。ましてやハーフとなると・・・。

最近日本に20日間ほどいたが、不況や大震災の影響か、いつもの行動範囲内に、白人の姿はかなり減って、黒人は一度も見かけなかった。一度も、である。これだけグローバル化した時代でも、「島国」感はぬぐえない。

しかし、肌の色の濃淡は、もちろん環境要因によるメラニン色素の多寡という適応変化でしかない。また、黒いよりも白い方がいいなどというのは文化や時代によって変わる。

ヨーロッパや日本でも「深窓の令嬢」のように、戸外で働く必要のないことを意味する白い肌の女性に美や純潔のイメージが付与された時代があるかと思えば、今はバカンスに出かけたりアウトドアの活動ができたりする余裕の象徴として日焼けした肌の女性が好まれて日焼けサロンが繁盛するほどである。

ブラック・アフリカも例外ではなく、今でもタンザニアやブルンジなどでアルビノスの子供が生まれてきたら殺されたり、白い手足を切断されてミイラ化したそれを呪術の道具にされたりすることがあるので、白いことが不吉や恐怖につながるのかもしれない。

犠牲者を守る国際人権団体もがんばっている。2008 年3月にはじめてタンザニアの大統領が禁止して173人の呪術師を捕らえたが、事態は改善しておらず、障碍者にされて亡命する人もいる。

一見平和な生活を営んでいるような部族でも、実は、さまざまな理由からマイナーな弱者になった存在を排斥したり殺したり 抑圧したりしてその平和を保っていることが少なくない。性器切除と縫合のように若い女性のほとんどが対象になる地域もある。そこにずっと暮らしていたら、祖母も母親もそれを継承するわけだ。アルビノスでも女の子が悲惨なようだ。

結局どこでも、「多数派と違うものを排除しよう」という圧力が働くわけで、それを思うと、個人的には、「白か有色か」がはっきりしない「混血」がどんどん進むといいと思う。遺伝子的にもサヴァイヴァル能力が増すし文化的にも豊かになる。

しかし、結局は、肌の「色」だけの問題ではない。

傷跡やあざ、ニキビやソバカスに至るまで、「見た目」は社会関係を左右するし、長生きすれば誰しも避けられないシミやシワなどの「経年劣化」も、人の心を深刻に蝕むことがある。

まあ「経年劣化」がとことん進めば、心身機能さえ維持していれば人は尊敬や憧れの対象になり得るし、「肌の色」だの「人種」だの「性別」だのの差すら限りなく小さくなる。

「外見」が本当に圧力となるのは、人がモノとしての価値を持つ場合なのだ。

一方、そういう「価値」の序列から逃れさえすれば、人はなんの偏見もなく異種を愛し、仕え、共存することができる。

混血など不可能で肌の色どころか形態もまったく違う犬や猫のペットを家族同様に愛する人は少なくない。

「そこにいてくれるだけでいとしい」

という存在は、外見の差など関係ないし、価値観の共有やコミュニケーションの有無ですら関係がない。

「命」が私たちを惹きつけ、結びつける。

優生主義の誘惑とはとことん戦わなくてはならない、と思う。

若い女性に一定の理想型の情報を流し続ける文化の罪は、重い。
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by mariastella | 2011-09-15 17:26 | 雑感
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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