L'art de croire             竹下節子ブログ

身延山詣で

9月上旬、日蓮宗の総本山久遠寺のある身延山に始めて行った。

泊まったのは日朝水でも有名な中興の祖日朝が祀られている覚林房という宿坊。湯葉御前でも有名。

新宿から中央線の特急に乗って甲府で乗り換えたのだが、甲府という駅に降りたのも始めてだ。

「山梨県は東京と隣接しているに関わらず、山を越えなければどこへも行けないので、心理的な距離はすごく遠いんです。」

と身延出身のパントマイマー、ヨネヤマ・ママコさんが言っていた。

故郷の身延にようやくスタジオ付きの家を建てたのに、そしてそこが新宿からの高速バスの終点のすぐそばだから是非来てくださいと言われていたのに、先のばししているうちに、ママコさんは東京のマンションから埼玉に引っ越された。

東京とセーヌのほとり、東京と身延山、を行き来する暮らしから、首都圏であって同時に彼女の求めている風景の残る場所に移られたのだ。

もう20年近く前、彼女がセーヌのほとりの一軒家を見つけて工事をしている時に、私の義妹のところに住んでいたことがある。

そこで日蓮宗のお経を唱えては、義妹と同居しているチベットの高僧と意気投合していた。

ママコさんのいない身延山は、それでも私にとって、妙に懐かしい場所だった。

甲府も別の旧友の出身地で、冬に校庭に水を撒いて凍らせてスケートをするなどという話を私は驚いて聞いたことがある。お父さんが民俗学者ということで、いろいろな写真を見せてもらい、私にとってはフォークロアの宝庫の秘境のようなイメージだった。

山の中の総本山というと私には比叡山や高野山がなじみがあり、泊まったこともあるし、母とは鞍馬山に何度も行った。
そういうイメージと、日蓮正宗の「折伏」の先入観と、フォークロアと、ママコさんの話とで、もっと神秘的な強烈なものを想像していたのだけれど、わりとコンパクトで敷居が低い感じだった。

どこに行っても、「お詣り、ご苦労さま」という巡礼者をいたわる家族的な雰囲気があって、安心感がある。大きい巡礼地には共通したものだ。

日本仏教の中で唯一開祖の名を冠した宗派というわけで確かに「日蓮大聖人」の存在感は大きいけれど、「菩薩」扱い(これが日蓮正宗では日蓮が「本仏」ということになる)であるし、絵になっている日蓮の法難の数々が見ていて気の毒で、しかも、最後にようやく身延山で落ち着けたかと思うと、故郷の方を毎日拝しては懐かしがっていたようでもあるし、病気治療に出かけた先で病死したり、しかも、あまり長生きしていない。

空海や最澄も長生きしていないけれど、権勢は大きかった(お釈迦様より長生きした有名な日本の僧侶は親鸞や蓮如など浄土真宗系だ)。 まあ、日蓮は流罪された先の佐渡などで信者を獲得しているけれど。

今回は、東日本大震災で日蓮宗など大手宗教がどういうリアクションをとったのかに興味があったので、久遠寺の発行している『みのぶ』という雑誌を5月号から9月号までじっくり読んだ。

日蓮と言えば立正安国論で、「法華経に帰依するならば武運長久国土繁栄に至る」というような布教のされ方をしてきたので、そういう宗教が、地震や津波のような国難を前に何と説明するのか知りたかったのだ。

いろいろと、非常に興味深かったのだけれど、平成33年の宗祖ご降誕800年や35年の身延山開闢750年の行事に備えての百萬人講浄財勧募中で一口壱萬円の寄付者芳名が毎月掲載されていることなど、すごいなあと思った。他の宗派もこんなものなのだろうか。

宝物殿に西洋クラシック音楽がバックミュージックとして流れていた。
南無妙法蓮華経じゃないんだ。

江戸時代のエピソードが面白い。当時でもすでに迫害する側は、宗旨がたわごとだと認めろと迫っていて、『無神論』の歴史を書いていた時も思ったが、宗教を荒唐無稽だと思う合理的感覚というのは、近代以前でも十分に浸透していた。

全ては歴史的社会的な文脈の中で、ある宗教や教義が「利用できるかどうか」、にかかっているのだ。

日蓮聖人伝の奇跡譚をどこまで信じるべきなのか、という信者さんの議論もネットでは見られるし、信心と信仰と懐疑とはいつの時代もどんな文化でも共通した葛藤を生むらしい。

進化心理学でいうと、現代は、個人や集団の「淘汰圧」が格段に減っているから、信じるか信じないか、の集団確認作業はもうあまり必要ない時代だ。

よかった。
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by mariastella | 2011-10-01 06:45 | 宗教
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