L'art de croire             竹下節子ブログ

Marie de Dieu と ケニアの話

マリー・ドゥデュー(Marie Dedieu)は、66歳で病弱で車椅子生活のフランス人年金生活者だ。

ケニアの小島で、海賊だかイスラム過激派だか10人ほどに数日前に拉致された。今フランス政府が犯人グループと接触して解放を交渉中らしい。

この島は最近観光地として注目を浴びて高級ホテルができ、そのバンガローで最近イギリス人夫妻が襲われて、夫が殺され妻が拉致されている。

マリー・ドゥデューの方は、もう15年もケニア住まいで、この島(Lamu列島のManda)の海岸に、7年前、スワヒリ風の家を建て、天国だと言いながら、現地の人たちと交流している。

ラジオで彼女の名を聞いてまるでシスターの修道名(マリー・ド・デューならば、神のマリアということになり、聖母マリアを連想させる。実際、「この名前なんだから絶対に救われるよ」、というコメントもあるくらい、誰でもはっとする名だ。実際はドゥデューと続いているのだが、フランス人の姓の多くはあだ名から来ているので、先祖が信心深くて有名だったのだろう)で、興味をそそられたのと、つづりを知りたくて、ネットで確認したら、いろいろなコメントを見つけて読んでしまった。

「好きでリスキーな場所に行っているんだから、その人に国の予算を使うのはこの財政不況の時にいかがなものか」

「いや、そんな場所にずっと長く行っているのは、フランスに現地の情報を流しているという役目があったんだろう」

「フランスにいたってリスクはあるよ」

「でもケニアでないとボーイは雇えないからな」

「フランスにいたら周りがフランス人ばっかりだという欠点がある」

「自虐はやめましょう」

「彼女は現地で愛されていた。それだけで、フランスのよいイメージの宣伝になっていたのだから、救うのは当然だ」

などなど・・・

最初のコメントはまるで昔イラクで誘拐された日本人へのバッシングみたいだったのだが、それへの反応はいろいろだった。

でも、年金生活者になってから、また体も不自由になってから、ケニアのような国にずっと住み続けるってどんな人だろう。

使用人のボーイ(この人がひょっとして誘拐者を手引きしたのではないかとも疑われている)の他に、同棲している内縁の夫(マサイ族ケニア人)もインタビューに答えているのだが、この「夫」は彼女より27歳年下の39歳で、彼女が最近もフランスのロレーヌ地方に住む父親を訪ねるために帰国した時も付き添っていたという。

父親はどう考えても90歳がらみだろうし、ケニアにいる娘がたまに訪ねていくということは、多分男やもめだろうし、彼女自身にも、父親の他には子供など近い家族がいないと想像できる。

白人がブラック・アフリカに定着すると、シュヴァイツァーだとか各種の人道支援、あるいは帝国主義目線のどちらかに分けられがちだけれど、伝統的に、ブラック・アフリカを本当に天国のように憧れる人もいる。

もちろん、たとえば同国人どころか人間全般が苦手で、野生動物いのち、みたいにアフリカのサバンナなどに暮らす人もいるのだから、異文化とか異人種に異常な愛着を寄せる人が存在するのは不思議ではない。

しかし、たとえば、現実に、貧富の差、物価の差、治安の善し悪しの差などは存在しているし、ケニア人が、「異人種」の国に愛着を持って、という理由からひとりでフランスで年金生活を送るなんていう話は起こらない。

こういう事件が起こると、帝国主義の歴史とか人種差別とか、現代先進国の不全感とかいろんなことが浮かび上がってくる。

そのマリー・ドゥデューは、ケニアからソマリアに拉致監禁されているそうだ。

ケニアとソマリアというと、ケニア国境近くに、9割以上がソマリア難民だという45万人を抱える世界最大の難民キャンプを思い出す。
今年の飢饉は深刻だったのでこの夏もかなりの話題になったのだが、そして支援物資は今も足りていない状態なのだが、この辺はもう20年もこんな状態が続いている。

死亡率ももちろん半端ではないが、毎日半死半生でたどり着く人の数も多い。

こういう人たちを、どうするかというと、もちろん食料と水、衛生状態の整備と治療の提供はあるのだが、「元の場所に帰ってもらう」という選択肢はもちろんない。

で、45万人というと立派に都市の規模だから、学校を作って、子供たちに手に職をつけさせて、この都市内で働き手となって自立してもらおうという計画が進められている。

しかし、ここで生まれたり育ったりした子供たちは、親たちが働いている姿を一度も見たことがないので、毎日学校へ行くという習慣がつかない。

それでも、国連をはじめとして世界中からきているNGOががんばっているので、今では3人に1人の子どもが学校へ行っているという。

ところが、同じケニアの、その難民キャンプの外では、子供の就学率は10人に1人ということで、それは不当だという声も上がっているらしい。と言っても、その辺は遊牧民も多いから、国境とか都市とか学校という考えももともとかなり違っているかもしれない。

そんな「世界一の規模」の難民キャンプ、おそらく世界一の子供死亡率のキャンプのある国で、そこの島を「天国」だといって暮らす人もいるし、高級ホテルに滞在する人もいるわけだ。

その後、マリー・ドゥデューについての情報がいろいろ入ってきた。

彼女は20代で交通事故にあってからずっと車椅子生活の障害者で、70年代の妊娠中絶法運動の中心人物の一人で、フェミニストの雑誌の編集長だったそうだ。

障害にも関わらず、熱心な活動家で感嘆されていたが、ケニアに出会ってからは、その魅力にとりこまれたという。

ここ数年は難病のために、4時間ごとに薬を飲まなくてはいけない状態だったそうだ。

それなのに、すごく活動的だった。

無事なのだろうか。

車椅子なしで拉致されたので、立つことも座ることも自由にできない状態だと思われる。

ほんとに「聖母のご加護」があればいいんだけれど…
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by mariastella | 2011-10-04 06:17 | 雑感
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