L'art de croire             竹下節子ブログ

フラ・アンジェリコ

ジャクマール・アンドレ美術館のフラ・アンジェリコ展に行ってきた。

ここのところ展覧会を先延ばしにしていると見損なってしまったという例が続いたので。

有名な金箔の使い方は完全に工芸的な線刻やレリーフで、その細部の素晴らしさは、写真と実物との差がこれほど大きいのがめったにないくらいだ。金というのは、すごいマチエールである。

1月までやっているのでパリにいる人は必見。

彼がドミニコ会に入ったことに関して、当時の画家は、修道士でなければ同業者組合に所属しなくてはならないし、それはそれで徒弟制度などの人脈が複雑なので、修道士になるというのはアーティストとしての自由を確保するひとつの解決法だったのだということを知った。

修道士が絵を描くというより、絵描きが修道士のステイタスを獲得するのだ。

それでもフラ・アンジェリコは叙階までされたんだから、修道士になって宗教画ばかり描いてるうちに本当に「回心」体験があったのだろう。

子供の時から修道院で育ったようなフィリッポ・リッピのような人の放縦ぶりとは逆だ。(そのリッピの絵もあったが、彼の描く人物像のまろやかさは見方を変えるとマンガ風でもあり親しみやすさがある。性格も反映しているのかもしれない)

何しろ福者だし。

キリストの上半身のまわりに受難道具をちりばめた絵がひとつあって、上の方にはユダの接吻がある。その絵を私の後ろでながめていた老婦人2人が、左下の誰かの首を切っている人を見て「これはなんだろう」としきりに言っていたので、思わず「サン・ジュリアンですよ」と言ってしまった。確認していないけれど多分そうだろう。

キリストの受難には直接関係ないが、ジュリアーノ・メディチの守護聖人だからだろう。メディチ家が注文した絵には、一族全部の守護聖人がずらずらと出てくる。聖コジモと聖ダミアーノが殉教して首を切られている絵もある。

この二人は外科医でもあったので、医者の守護聖人で、メディチ家はその名の通り医薬関係の家柄が起源だから、「名」だけではなく「姓」の守護聖人にも気を配っているわけだ。

首を切られた殉教聖人たちの頭にも聖なる光輪がちゃんとついている。

逆に、光輪をつけた聖人が、こともあろうに他の人の首を切っているなんていかがなものか・・・ということで、老婦人たちは悩んだのだろう。

でも、聖ジュリアーノは、妻が密通しているのだと勘違いして、実の両親の首を掻き切ったのだから、殉教者を処刑したそこいらの役人よりも恐ろしい。そういう強烈な、ギリシャ悲劇みたいなキャラが、その改悛のすさまじさで人気聖人になったのだ。

フラ・アンジェリコは他にも聖ジュリアーノの絵を描いている。

もちろん、数々の聖母子像、聖母戴冠像もすばらしい。

聖母戴冠(と言っても聖母の冠にイエスが宝石を一つくっつけようとしている不思議な図柄のやつ)は、楽器を奏でる天使が珍しく後ろ姿だったり、背景がとにかく金色の後光ずくめなのに天使や聖人たちの群像の配置がすばらしく、ほんとうに天国を見ているようだ。

フラ・アンジェリコといえば独特の光が、光が、と強調されるが、デッサンも構図も天才の仕事だ。

メディチ家のような裕福な商人だの権力者たちが魂の安泰のためにこぞって美の製作に金をかけたというのは、非現実的なくらいに贅沢だ。
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by mariastella | 2011-10-08 01:13 | アート
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