L'art de croire             竹下節子ブログ

最強のふたり Les intouchables

話題の映画 『Les intouchables』のことを書こうと思ったのだが、今大成功をおさめているこの映画を見ていない上に、タイトルをどう訳そうかと迷っていた。

思い立って監督名をカタカナにして(エリック・トレダノ、オリヴィエ・ナカシュ)からネットで検索したら、何と、「最強のふたり」という邦題で、11月の第24回東京国際映画祭でサクラグランプリを獲得していた。

http://mainichi.jp/tanokore/cinema/

「事故で首から下が麻痺してしまった富豪と、介護役の黒人青年との、実話に基づく交流を映画化した作品で、主演したフランソワ・クリュゼ、オマール・シーは揃って最優秀男優賞も受賞」らしい。

フランスでは興業的成功が第一の話題だ。

その上、フランス在住の日本の方による詳しい内容説明があるブログを見つけた。

http://pepecastor.blogspot.com/2011/11/blog-post_10.html

くわしい内容を知りたい方はそちらをどうぞ。

で、私はこの映画を見ていない。

バロック・バレーの知り合いが少しだが出演して、観に行った仲間が「よかった、絶対に行くべき」と言ったので、迷ったのだが、貧富の格差と障碍の有無で立場がまったく違う二人の友情など、あまりにもお手軽な感動シチュエーションだと思って抵抗があった。

それに、差別の問題や格差の問題が日常にあるこの社会で、ある意味でラディカルな状況をフランス人がみんないっしょにブルジョワも失業者も、インテリもドロップアウト組も、右翼も左翼も笑いころげて感動することで連帯の気分になる偽善性も嫌だったのだ。

すると先日、ヒットしたフランス映画のアイディアをリメイクすることが少なくないアメリカ映画界の反応が新聞に載っていた。

この映画は人種差別映画だと批判されている。

「黒人奴隷が白人の主人を楽しませる」というテーマはアメリカではよくあった、というのである。

やっぱりなあ、と私は思った。

フランスの「本土」ではいわゆる「黒人奴隷」という歴史がほとんどないので、この映画でもそうだが、黒人はアフリカから経済的その他の事情によってやってくる移民や難民というのが一般イメージである。もちろん「差別」はあるのだが、奴隷制やら植民地やら強制連行やらホロコーストなどといったフランス側の「罪悪感」には直結しない。だから、フランスで黒人の「不良」が白人の貴族の富豪と仲良しになる話をしても、「政治的公正」の刃でもろに切って捨てられるリスクはない。

それまで、「みんなが勧めるいい映画」であるこの映画を、うちの家政婦さん(白人フランス人女性)だけが、「私は絶対に見に行かない」ときっぱり言っていた。

いわく、この金持ちは、重度障害者の手当て(700ユーロ未満)を国から受け取っている。金で買えないものはない。金さえあれば、24時間体制で全て世話してもらえて、パラグライダーもできるし、旅行もできるし、幸せになれるのだ。不愉快だ。
金がなくて障碍を抱えている者を馬鹿にしている。

私はおずおずと、

「そりゃ、貧乏で障碍があるのは悲惨よ。でも、大富豪で首から下が麻痺していてあらゆる世話をしてもらえるよりも、誰でも、貧乏で元気な方がいいんじゃない。だから、映画見てる人は誰でもそれなりのカタルシスを味わえるのでは ?」

と言った。

確かにそれだけ金があるなら、私なら同じ障碍の人のための施設を創るとか別の連帯を考えると思うけど…

すると家政婦さんは、テレビでこの映画のモデルとなった「主人」と「介護者」を見た、障害者手当をもらっていると堂々と言ったのはその富豪で、幸せいっぱいそうだった、すごいエゴイストだ、と言った。

おまけに、現実の介護者は、アフリカ黒人でなく、フランスでは最も「郊外」の移民ゲットーで問題を起こし差別もされているマグレバン(アルジェリア、モロッコ、チュニジアという旧植民地や保護領)の若者なのだそうだ。
この映画が実話に基づいていることは聞いていたが、介護者がアラブ人だとは知らなかった。

なるほど。

今のフランスで、「郊外のアラブの若者」が「パリの白人の富豪」と友情で結ばれるというストーリーをそのまま映画にしたら、アメリカでの反応と同じくかなりの「政治的公正」の琴線に触れていただろう。で、ビジュアルにはもっと対照的で、けれども政治的歴史的にはややプレッシャーの少ない黒人をもってきたわけである。

しかし、アメリカ人の目から見ると、微妙以上のリスクである。

すると家政婦さんとその話をした日(12/13)の夜、たまたま、テレビ(2ch)で、この映画のモデルになった2人のドキュメンタリーをやっていた。

なんというか・・・

すごいのは、この重度障害の富豪貴族duc Pozzo di Borgoのキャラクターだ。

この人の中には、アブデルという介護者に出会う前から、独特の強烈なバイタリティとオプティミズムがある。ソルボンヌで一目ぼれした妻を癌で失って落ち込んだが、アブデルに助けてもらえたのは事実だ。

自分がパラグライダーの事故にあって寝たきりになってから3年後に妻が死んだ。その亡くなった妻のことを話すだけで泣いている。彼の生涯での一番の苦しみは、自分の事故や障碍でなくて、今でも、「妻を失ったこと」なのだ。

障碍に関しては、他の障害者に向けて、全身麻痺でも「人生を楽しめる」というメッセージをちゃんと出し続けている。

家政婦さんの言ったように「金さえあれば」というのでは反発されるだろうが、この人には独特の、天然の明るさがあって、「私は楽しく生きている」と言われると、みな、惹きつけられてしまうのだ。

アブデルの方はフィリップ・ポゾ・ディ・ボルゴと出会えてラッキーだった普通の人だ。とても頭がよくて性格もいいが、相手次第では冷酷にもなれそうな男だし、皮肉屋でもあり、コンプレックスと裏返しになったつっぱりや顕示欲もある。フィリップ・ポゾ・ディ・ボルゴのような稀有の男と出会ったチャンスを見抜く力もあり、信頼を得る力もある。

彼はフィリップを取り巻く人々の偽善を感知し、フィリップがそれらと一線を画することも感知した。

アブデルは、頭のいい普通の男だが、フィリップの周りには絶対いないタイプであることは事実である。

フィリップは、病気の妻が子供を産めないのを慰めるために2人の養子を育てた。この、ぜいたくに育った養子がそもそも、いわゆる白人ではない。この娘の方がアブデルを差別の目で見ていたようだ。それも実感がある。アブデルはそれにも敏感だ。

なんだか、映画を見ずに私が感じていた違和感の正体が次々ととけていく気がした。

興行収入の一部は障害者支援に回されるというので、そのうち見に行ってまた感想を書こう。
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by mariastella | 2011-12-16 02:39 | 映画
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