L'art de croire             竹下節子ブログ

真実は人を自由にするか(承前)

前記事の「真実は人を自由にする」について、カトリックの見方を質問してきた方がいたので、もう少し敷衍しておく。

前教皇のヨハネ=パウロ二世の教勅に『Veritatis Splendor(真理の輝き) 1993/8/6』というのがあって、そこ(64)には「良心の自由は真理を無視した自由ではなく、真理の中にだけいつもある」とある。

この「良心」というのは、「善悪を見分けるために備わっている知識」から「自意識」まで使われるconscientiaから来た言葉だが、日本語だと「良」心に限定される感じで分かりにくい。

ここでは、「真理が自由にする」ということを別の角度から見て、世にはびこる「自由」至上主義が「好き勝手なことをしてもよい」方向にいかないように、むしろ「真の自由」とは何か、と問いかけているのだ。

これも、日本語の「自由」という言葉は「自らに由る」という「自分が基準」の感じがあるから、分かりにくい。

「なにものにもとらわれない状態」というのは、自他の利害の対立や権利義務の拮抗などを超えた、集合的な命全体の流れの中でのみ成就されるという意味なのだろう。

その底には、人にはそういう「真理」を感知する能力があって、それを行使すれば、「自由に」人生を「善」の方に向けることができるという確信があるわけだ。

この「真理」は、表面的ないろいろな対立や視点の相違を超越したものだから、ある家庭の事情で今、家族関係が実はどうなっているかというような「現実」とは関係がない。むしろ理念に近い。実際、近代理念というものは、欧米キリスト教国が(神の)「真理」から「神」を削除または希釈したものだと言える。

「事実は真実の敵(かたき)なり」

というのはドン・キホーテの有名なセリフだ。

「事実が真実をつつみ隠すこともある」

この場合、事実を事象と言い換えた方が分かりやすいかもしれない。
私たちが感知する事象は、事実の「相」であって、本質ではない、というように。

「一番憎むべき狂気とは、あるがままの人生に折り合いをつけて、あるべき姿のために戦わないことだ」

なかなか含蓄のある言葉だ。

といっても、ドン・キホーテにとっての「あるべき姿」は騎士道世界の「幻想」なのだから、「戦い」は「風車に突進する」ような馬鹿げたものとなる。

ドン・キホーテは自分の「幻想」世界の「捕らわれ人」となっているのだから、それを信じて「自分勝手に」振る舞っても、それが「真の自由」の行使とは言えない。

ドン・キホーテを「正気」に戻そうと、司祭や学士があれこれ策を練る。

17世紀初頭、宗教戦争がまだおさまらないヨーロッパはキリスト教にとっての危機の時代なのに、スペインでは、レコンキスタ以来のカトリックがさまざまな宗教的公正にのっとった「真理」をしっかり掌握していた。

人々にとっては、その真理を吟味するよりも、新大陸に進出する欲望やエネルギーの方が優先する時代だったのかもしれない。

何が、誰にとって、「真理」なのか「幻想」なのか、見分けることは難しいし、見分けることを要請しないような社会も時代も状況も存在する。

それでも、「現実」や「真実」との「折り合い」のつけどころというのは、その時々にあるわけで、それをうまくインスパイアしてくれるのは、宗教の聖典よりも、ある種の文学作品だったりするのかもしれない。
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by mariastella | 2011-12-30 08:47 | 宗教
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