L'art de croire             竹下節子ブログ

プーチンとキリル一世など


なんだか予定調和的なロシアの選挙が迫っているが、モスクワ総主教のキリル一世が、ついこの前は反プーチン派を擁護していたので、ひょっとして風向きが変わるかなと思っていたのに、急にデモを牽制し始めた。

プーチンはスターリンの死ぬ一年前、ロシア正教が禁止されていた時代に、信仰深い母親の願いで、サンクトペテルブルク(当時はレニングラード)において隠れて洗礼を授けられたと言われている。

実際に教会に行く人は5%ほどだが、人口の70%が正教徒だと自称するロシアでは、このプーチンと教会の「親密さ」が政治的に有利なのは確かだ。

キリル一世が何より恐れているのは、反プーチン派の示威行動がいつかまた「革命」に発展しないかということであって、力の衝突よりも対話を願うというのはよく分かるし、プーチンが大統領に返り咲いた時に彼に対する影響力を温存しておいた方がいいと判断したのかもしれない。

けれども、シリアの問題もあるし、いっそ、プーチン、反プーチンに並ぶ第三の勢力として持ちこたえてもよかったのにと思う。

シリア=イラン=ロシア路線と、サウジアラビア=欧米路線の対立は、なんだか冷戦時代よりもたちが悪そうでおそろしい。

しかも、民主化がどうとかいうならば、サウジアラビアなど「欧米」民主主義基準からまったく外れていることは、イランと変わらないわけで、これはもう、文明の衝突とか民主主義と非民主主義の対立とかいうレベルではないのは明らかだ。現に冷戦時代も、非民主的独裁国家でも親米でさえあれば「自由主義陣営」だと見なされていたのだから。

欧米基準で独裁と言うなら、たとえばイギリス連邦加盟国でイスラム教を国境とするブルネイだって、総選挙もなく、立法も行政も国王とその家族が独占しているのだから、立派な独裁国家、非民主主義国だ。でも、この国も、サウジアラビアと同じく、石油やら天然ガスやらの資源が豊富で、王が国民を丸抱えする「幸せな国」だ。税金もないし、医療も教育も無料だし、物資も豊かでインタネットの検閲もない。

それなら・・・OKなのか。

私が11年前にサウジアラビアについての本を書いた時、その時はまだ9・11以前だったので、招待してくれたフランス人から、「王家の批判とイスラムの批判は書かないこと」と釘を刺されていた。

それは守ったが、イスラム原理主義的なリヤドの女性の表向きの「自由のなさ」と、内側の物質的贅沢の差にくらくらしたことを書いた。

するとあるフェミニズムの論文の中で、それを一部引用して、まるで私が、彼女らを羨ましがっているかのように書かれていたことがある。

もちろん、人々が物質的に不自由なく快適な暮らしをしている国の方が、飢饉で子供たちまで餓死する国よりはずっといいけれど、そういう問題ではなく、そのような格差や悲惨な状況を生み出しているこの世界の地政学的な構造そのものが変わらない限り、本当の意味で「幸せな国」などあり得ない。

ロシアと言えば、確か、平均寿命が異常に短い国で、特に男性は今世紀に入っても60歳を切ることがあった。

プーチン、今年60歳。いかにも頑健そうだ。

キリル層司教、65歳。長い髭は白い。

2人とも現役感満々だ。

きっと、健康格差が大きい国なんだろう。

(そういえば、女性が車の運転を禁止されているサウジアラビアで、2011年5月、わざわざ自分が運転しているとこを撮影してウェブの動画に流したマナル・アル・シャリフという女性がいる。彼女は数日禁固されたが、その画像はソーシャル・ネットワークを通して瞬く間にひろがり、彼女は女性解放のシンボルとなりつつある。

2009年には初めて女子教育相次官に女性が任命されたし、2015年には選挙権を得ると公約されている。

サウジアラビアは今や、人口の60%が25歳以下というすごい人口構成の国だ。

この国に「アラブの春」がどのような形で来るのか、じっくり見てみたい。)
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by mariastella | 2012-03-03 07:58 | 雑感
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