L'art de croire             竹下節子ブログ

お告げを聞いた2人の少女

昨日のアヌーイのジャンヌ・ダルク劇の続き。

イギリス軍を追い散らしてオルレアンを解放しろと神が望んでいる、と強弁する少女ジャンヌに、シャルル七世が

「そんなこと言うけどさあ、イギリス人だって同じ神に祈ってるんだぜ、で、神はより多くの軍隊とより多くの金を持っている側につくって、相場が決まってるんだ。軍隊も弱く金もない僕には無理無理…」

みたいな感じの答えをする。

そこで、ジャンヌは

「それは違うわ、神は勇気のある方につくのよ」

ときっぱり言うのだ。

思えば、天使から受胎告知を受けた時のマリアと、やはり天使から声を聞き始めた頃のジャンヌは同じくらいの年の娘だった。

マリアの場合、ナザレというローマ属領の辺境にわざわざ天使が来て、神に選ばれたと少女に告げたわけだ。

少女は、突然の受胎を告知されて最初は驚くが、すぐに、アーメン、フイアット、let it be 、ainsi soit il、み旨のままに、お言葉どおりこの身になりますように、という感じで、受け入れる。
それもすごいけれど、「受胎」とか「受け身」とかいう「受動」ではある。

ジャンヌ・ダルクの方も、フランスのはしっこの田舎で暮らしていた少女なのに、突然やってきた天使から使命を告げられるのだが、こちらの方は、自分で兵士を率いてイギリス軍を追い出せ、と言われたのだから

「え、そ、それは、お人違いでしょ」

とあわてたのも無理がない。

なるようになるとか、み旨のままに、とかいう受け身でじっと耐えたり待っていたりすれば事足りるのではない。

10代半ばの田舎娘。

馬に乗れ、

シノンに行って王太子を説得しろ、

軍隊を率いてオルレアンに行って戦え、

王をランスに連れて行って戴冠させろ、

などと無理難題を言われても…。

神は、ジャンヌの親や守備隊長や王太子や聖職者やらに対しても、お告げだの夢だのによる「根回し」すらしてくれていなかった。

すべてはジャンヌだけに、かかっていたのだ。

キリスト教の歴史の中では、時々聖人や聖母が一介の信者の前に現れて「ここにチャペルを建てろ」などとあれこれ難題を吹っかける話がある。困った信者はそれを司祭に伝えるのだが、もちろん一笑に付されるし、しつこく言うと、では証拠に奇跡を起こしてもらえ、などと言われる。

で、時々、泉が湧いたり、季節外れの花が咲いたり、マントに聖母像がプリントされたり、花びらの雨が降ったりなどの「奇跡」が恵まれる。

ジャンヌ・ダルクはそういう「徴し」ももらえなかった。

でも、彼女には、インスピレーションが与えられた。

村を出ること、

守備隊長を説得して、シノンの王太子のもとに行く手配をしてらうこと、

王太子を説得すること、神学者たちによるチェックに耐えること、

歴戦の将官たちと渡り合うこと、戦火をくぐること、

そして、宮廷全部を移動させて敵地にあるランスの大聖堂での戴冠式にこぎつけること、

不可能に次ぐ不可能を彼女は次々と可能にした。

アヌーイが、彼女がランスで人生の頂点に到達したと見なしたのは本当だ。

それに比べたら、その後の敗北や逮捕や異端審問や火刑台で生きながら焼かれたことなどは、ひょっとして、別の位相の出来事なのかもしれない。

地方の庶民の17歳の少女が、王や聖職者や軍人と渡り合い、一国の歴史の流れを変えた。

悲劇的な最後まで見るからひとつの数奇な人生のように思われるけれど、彼女の「されたこと」ではなく、「したこと」や「言ったこと」だけに注目すれば、まさにそのままが奇跡だ。

与えられた使命がどんなに不可能に思える時でも、十五世紀のこの少女がそうしたようにゴールに向かっておそれずに進めば、不可能が可能になることがあるのだ。

マリアの受容とジャンヌ・ダルクの能動ぶりは、対極にあるようでもあるが、私たちには、人生で、抵抗せずに何かを受容すべき声を聞く時と、不可能に挑戦すべく突き進むべき声を聞く時と、両方あるのかもしれない。
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by mariastella | 2012-06-16 06:13 | 宗教
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