L'art de croire             竹下節子ブログ

ノストラダムスの大予言

プラハ・シリーズその3の前に忘れないうちに書いておく。

先日、TBSラジオの「爆笑問題の日曜サンデー」(このタイトルって、なんか同じことを二度言ってないか?)というのに、電話インタビューで、ノストラダムスのことについて聞かれて参加した。

ノストラダムスについて話すなんて久しぶりだ。

で、もちろん、いろいろ話したうちの一部のみ収録されたのだが、収録されなかった部分に、ひとつだけ、私が1999年の7の月の前にいろいろ書いたり喋ったりした時には言わなかったことがあるので、ここで書いておく。

私は『陰謀論にダマされるな』という新書で、現代社会にはびこっている形の終末論の起源はキリスト教文化で陰謀論の起源はフランス革命だ、と解説した。

同様に、ノストラダムスの『予言書』の解釈論争のルーツも、啓示宗教の啓示注解の歴史がルーツだという事情が存在する。

どんな文化でも、宗教の聖典や経典や文学古典や民俗伝承などを研究、分析、読解して時には再解釈、新解釈などが出てくるということがある。

特に、一定以上の長さのあるテキストなら、暗号のように裏の意味をさぐったり、単語の文字の数だとか、逆から読むとか、文字を並び替えたりとか、なるほどと膝を打ちたくなるものから、どう見ても恣意的なこじつけだと思われるものまで、ありとあらゆる珍解釈やトンでも解釈がゲームのように展開されることもある。

特に終末論系のテキストはその対象になりやすい。人々がネガティヴな情報の予測の方になぜか惹かれるので、あるいは脅した方が商売になるので、実際、20世紀末の日本では、新・新宗教の教祖たちはほとんどみな、ノストラダムスの予言書を掲げて終末論をぶち上げていた。

日本ではもちろん、ノストラダムスの予言書はそういう時に便利で使い勝手のいいテキストとして1973年から突然クローズアップされたわけだけれど、そもそも、16世紀の幻想文学テキストが、当時から続けてずっとあれこれいじくられてきたということ自体は、やはりそれが、「キリスト教文化圏」のテキストだったからだと思う。

実際、ノストラダムス自身も「聖霊からインスピレーション」を受けたと言っている。

旧約聖書には預言者はたくさんいるし、新約ではイエス・キリストという救い主を得て、一応「救い」の解決はついているはずだが、ヨハネの黙示録もそうだが、その後のキリスト教世界ではあらゆるところで聖人や天使や神のお告げを聞く人たちがあいかわらず絶えることがない。

そうやってお告げを聞いた人の中には、異端だとして処罰された人もいれば、正式に聖人の列に加えられた人もいる。その線引きのためにも、お告げの内容を審査するいろいろな方法が発展した。

また、「正典」である啓示の書もまた、それをどういう風に解釈するかは各時代の権力者や権威者が誘導してきたし、学者たちも生涯をかけてきた。

その解釈もまた、「聖霊」によるインスピレーションによってはじめて可能になるわけで、人間的な論理的証明などは落とし所にならない。
それでも、人間を超越する何かからの真実の啓示があって、それを受け取って読み解くということが人間の使命であるという基本線は変わらない。

そこのところは、たとえば四書五経の研究などとは本質的に違う。

もちろん日本でも、突然「神からのお告げを受けた」と称してそれを書きとめて新宗教の経典にする人はいるわけだが、その解釈は、そのテキストを真偽の対象ではなくて信仰の対象として読む人たちに範囲が限られる。

ノストラダムスのテキストは、それ自体はキリスト教世界のルネサンスや宗教改革などの時代を背景にしてキリスト教的テイストで書かれたものであるけれど特定信仰のテキストではない。

それがいつのまにか「普遍的啓示」のような自由なポジションを獲得して、サブカルチャーの神学、一億総神学者まがいのコメントが書き継がれてきたわけである。

もっともらしく予言書を読み解く、という伝統が、やはり啓示宗教の一神教世界、とくにキリスト教世界に根差すものだということが、よく分かる。

全くキリスト教的なベースのない世界観の文化からは、末生思想だとか世直し思想がでてきても、ノストラダムス現象みたいなのは、やはり生まれなかっただろう。
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by mariastella | 2012-07-05 00:19 | 雑感
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