L'art de croire             竹下節子ブログ

次の教皇は何を期待されているのか

引き続き、「ローマ教皇の引退宣言」をめぐっていろいろなメディアでいろいろな人たちがいろいろな意見を述べている。

その中で私の注意をひいたものに、「今度こそ、黒人の教皇が生まれてもいいんじゃないか」という話題がある。

ローマ・カトリックの揺籃であるヨーロッパは、カトリック人口的には今や世界の中心などではまったくない。

ラテン・アメリカ、アジア(フィリピンが圧倒的に多いが、中国、ベトナムなどでも増えている)、アフリカ(ガーナ、コンゴ、ブキナファソなど)へとシフトしている。

教皇の選挙権をもつ枢機卿は今でもヨーロッパ人が多いのだが、それでも、「先進国」が牽引するいわゆる国際社会においてアフリカの存在感が少ないのに比べて、アフリカ人の司教や枢機卿などがローマ・カトリック内で占める地位は確かなものなので、ブラック・アフリカの「尊厳」にカトリックが果たしている役割は今でも小さくない。

けれども今回、急に「黒人法王」の可能性が取りざたされるのは、アメリカにオバマ大統領が登場したかららしい。

「KKKのあるアメリカで黒人大統領が生まれたんだから、ローマ・カトリックが黒人の教皇でもありじゃないか、それでこそ新しい時代のはじまりだ」という口調である。

なるほど、「フランスから見た世界」的発想だ。

フランスから見た世界、という意味では、次の教皇が何人であろうとも、「ヨーロッパ人の教皇」はB16が最後になるだろう、というコメントもあった。

ここで彼らが「ヨーロッパ人」と言っているのは、「ナチスの時代を知り、共産主義の時代を知り、ヨーロッパ連合の成立過程を知った世代」という意味である。

日本で「昭和を生きた世代」のような感覚かもしれない。

コメントしているのは50代から70代の人たちだから、日本なら、原爆や空襲のトラウマから立ちあがっての経済成長の時代、敵だったアメリカとの安全保障の関係を見た世代あたりかもしれない。

でも、日本は「平成」以来「失われた20年」などと言われて、ヨーロッパ連合のような国際的な前向きの取り組みはなかった。

ヨーロッパが常にキリスト教、特にカトリック教会との力関係の中で「近代」や「戦後」を築いてきたのと違って、日本の戦後には、「国家神道」を捨てた後での伝統宗教との葛藤や拮抗というものはなかった。

フランスのナショナリズムが共和国主義を強調する時、それはカトリック教会に替って唱える普遍主義の色調を帯びて大風呂敷を広げるのだが、日本のナショナリズムはなんだか民族的、宗教的なトーンを伴って内向きなのも大きな違いである。

話を「黒人法王」の方に戻そう。アメリカでは黒人大統領の出現は、少なくとも第一期目には宗教的熱狂があったし、これまで歴史的に差別されてきた人種が真に平等の基盤に立ったのだからこれからは弱者を擁護する新しい社会への改革があるだろう、というような期待もあった。

けれども、カトリック教会にたとえ黒人法王が生まれても、事情はまったく違う。

今の黒人枢機卿たちはみな、ローマを中心としてヨーロッパで神学を学んできたエリートだし、JP2やB16の薫陶を受け、彼らに傾倒している人々だから、宗教者としての感覚はヨーロッパ人と変わらない、というのは周知の事実だから、誰も「改革」の過剰な期待は抱けない。

しかも、問題は、理論的には教皇に選出される可能性のある黒人枢機卿たちがどんなに「ヨーロッパ的」だとしても、ブラック・アフリカのカトリック信者たちはヨーロッパと違ってかなり「保守的」だということであるらしい。

それはラテン・アメリカでもアジアでも同じで、ヨーロッパのカトリック教会が「近代化」の波の中でできるだけ排除しようとしてきた中世的な、フォークロリックなローカル儀式が今でもたくさんある。

復活祭の聖金曜日に群衆に囲まれながら十字架につけられる信者たちがいる地域を擁するフィリピンのカトリックと、司教団がエイズ予防に避妊具もOKとするフランスのカトリックとは、もはや同じ宗教と思えないくらいだ。

だからこそ、たとえば今のフランスのような国で敢えて熱心なカトリック信者であり続けたり聖職を選んだりするような人たちは、グローバルな視点を持っていて、無神論者や不可知論者とも議論できる強固だが冷静な信仰がある場合が多い。

非ヨーロッパのカトリック信者のような「熱い共同体」や「閉鎖的で守りの姿勢の共同体」の時代は、ヨーロッパでは、地縁的な意味ではとっくに終わっている。

B16は世界がグローバル化、一体化したからと言って、人々が自動的に兄弟になるわけではない、と言った。

今のように多様な世界観、多様な地政学的条件の混在するする世界で、ローマ教皇は、ありとあらゆるタイプのインカルチュレーションを遂げているカトリックを統合する象徴の役割を果たさなければならない。

反教権主義の嵐を生き抜き、時代の波に洗われて「考え続けるマイノリティ」となったヨーロッパの聖職者だからこそできることはまだまだあるかもしれない。

純粋に「マーケティング」の視点で考えると、伝統的に圧倒的マジョリティだったカトリックの信者数が激減しているラテン・アメリカ世界出身の教皇が選ばれた方が、「カトリックの巻き返し」を期待できると言われている。

ラテン・アメリカ世界でカトリックが激減しているのは、無神論や不可知論のせいではない。

人々が宗教離れしたからではない。

「福音派」と呼ばれるプロテスタント教会に転向したからである。

福音派は大がかりなパフォーマンスによって、人々が望んでいる宗教的熱狂を与えてくれるからだ。

実際、人々をカトリック教会に「呼び戻すために」がんばって、ミサをショー化している司祭もいるほどだ。

アフリカでも貧しい地域の貧しい人々ほど、立派な教会の非日常的な神々しい空間での熱く濃密な宗教体験を必要としている。

「先進国」の都市のように、都市そのものがすでにアトラクション・パーク化して消費の祝祭が日常を覆っているような場所ではない。

都市の喧騒を逃れて清浄で静謐な場所に宗教的、霊的ありがたさを感じるのではなく、歌やリズムに陶酔したり、司祭のカリスマ性に熱狂したり、按手による恍惚状態での癒しに感涙を流すことを人々は求めているのだ。

ヨーロッパの「宗教改革」の時代に、カトリック教会内に林立する各種聖人のチャペルが多神教偶像崇拝の観を呈しているのを批判して、聖母や聖人崇敬をとりはらったり、音楽さえ禁じたりした理性的で近代的なプロテスタントのイメージと、現代の「発展途上国」のニーズにこたえて派手なパフォーマンスをする福音派プロテスタントのイメージは真逆である。

昔はプロテスタントの批判に対抗して「近代化」をすすめたカトリック教会が、今や、アフリカやラテン・アメリカではコンサバでないとやっていけないのだから皮肉なものだ。

それでも、これだけ多様な世界の多様な人々に向かって敢えて「きょうだい」という普遍的なアプローチをすることで、すべての人に「キリストの体におけるきょうだい」の意識を覚醒させようと目指すカトリック教会のような存在は貴重であると思う。

それを支えているのが「単一の首長」である「教皇=聖父」であるのだから、やはり次の教皇がそれをどのように進めていくのかを注目したい。

一様の共同体の中での保守派とか進歩派とか右派とか左派などで論ずるには、今のカトリック世界はあまりにも多様だ。教皇はそのような多様性を突き抜けた地平で超越的なものと人間の関係を通して、人と人の友好的な関係の可能性を求めていかなくてはならない。

世界一のNPOの活動が世界の平和をインスパイアしてくれることを望もう。
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by mariastella | 2013-02-14 06:39 | 宗教
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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