L'art de croire             竹下節子ブログ

またまた黒人の話

またまた黒人の話です。

マリ内戦の影響もあって、パリ郊外にはアフリカからの移民や亡命者が増えている。

フランスはアメリカと違って、「解放奴隷の子孫」としての黒人コミュニティはないのだが、アフリカが近く旧植民地も多いので、いろいろなところに黒人コミュニティがある。もちろん、カリブ海のグアダルーペのようにそのままフランスの海外県として残った旧開拓地からやってくるフランス人である黒人も少なくない。

共和国主義は共同体主義を否定するので、表向きには人種別の統計など存在しないし、「…系フランス人」という表現も使えない。しかも外国人であろうと、医療などではたとえ不法滞在者であろうと福祉政策の対象になっているので、「差別」は一見見えにくいのだが、その「建前」と、実際の生活感覚にはかなりのずれがある。

白人の多い地域のバスがどんなに混んでいても、黒人の隣の席には誰も座らないなどの証言を集めたノンフィクションもある。

パリ市は一昔前に、黒人を周辺の郊外へと締め出そうとして、黒人に公共住宅を提供する町に金を支給したと言われる。もちろん表向きではないが、関係者に聞いたことがある。その「政策」で、あっという間に黒人コミュニティが出現した町は少なくない。それまでも、マグレブ三国の「アラブ人」移民のゲットー化は問題になっていたのだが、やはり外見の「色」のインパクトは黒人の方が大きい。アジア人やアラブ人のコミュニティとは微妙に違うのだ。

その辺に妙にタブー感があって、それが私にはすごく気になるのだ。

世界史に出てくるお決まりの欧米人の「罪」のリストには必ず「西アフリカからの奴隷売買」が出てくる。

実際はアラブ商人もユダヤ人も、黒人の王さまも、奴隷貿易で利を得ていた人は多いので、「黒人を人間と見なさない白人による人身売買」というステレオタイプな見方は正確ではない。

「利益最優先の文脈では、金や権力を持っている人々にとっては、無産者は人間ではない」

というのが多分正確だろう。

残念だけれど。

で、それでも、どうして「新大陸」のプランテーションの労働力としてあのように黒人ばかりが「調達された」のか、なぜそれが南部で優勢だったのか、カナダなどではなぜそんな話があまりないのか、などについて、私はこれまであまり考えたことがなかった。

インディアンが白人の持ち込んだ(ペスト菌をつけた毛布をわざと置いていった、などの細菌兵器並みの話も聞いたことがある)疫病でばたばたと倒れて絶滅寸前になり、中南米のインディオたちは奴隷にしてもあまり働かないので役に立たない、で、わざわざアフリカから黒人を連れてきた、という説を聞いたことはあるが、黒人がそんなに「従順で働き者」というのもおかしい。

強制労働の文脈に民族性など関係ないだろう、と思う。

そこに、最近藤永茂さんのカナダのインディアンの過酷な状況に関する記事を読んだのでなんだか、これまでカナダに抱いていた好感がしぼんだ。


しかし別の本をよんで、あ、そういうことかと気づかされたことがある。

アメリカ大陸ではユーラシア大陸と切り離されて以来、生物学的に別の進化が続いていたので、ペストなどの伝染病は存在しなかった。

というのは、ヨーロッパで流行して大量の犠牲者を出した多くの伝染病は、天然痘(馬やラクダで増幅したと言われる)、麻疹、インフルエンザなど、家畜の病気が変異して人間に感染するようになったもので、要するに「家畜文化」が盛んな場所で生まれたのだが、アメリカには家畜文化が少なかった。

馬も羊も山羊も鶏もいなかった(エルナン・コルテスが持ち込んだ馬の利便性を理解したインディアンたちは馬の略奪に励んだ)。

ところがヨーロッパの植民者たちは家畜を持ち込んだから、そのせいで免疫のない先住民はばたばたと罹患して人口の90%が犠牲になったと言われる。

ヨーロッパやアフリカの千年分の死者が新大陸では150年で出たわけだ。

それに比べると。ヨーロッパの植民者は免疫ができていた。この伝染病による先住民の人口激減がなければ、数少ない植民者が短い間に「支配者」としてふるまうようになることなど不可能だった。

で、広大な土地を利用したプランテーションであるが、中南米ではコロンブス以来もたらされたマラリアが猛威をふるった。

天然痘の犠牲者は主としてアメリカの先住民だったが、マラリアの犠牲者はヨーロッパ人だった。

マラリアの病原菌はもともと熱帯のものだから、ヨーロッパでは死滅するので、ヨーロッパ人にはマラリアの免疫がなかったのだ。

ニューヨークなど北アメリカの一定以上の緯度の場所でも同様だ。

こうして、ワシントン以南、リオ・デ・ジャネイロまでの白人植民者の40%がマラリアとその変種である黄熱病で死んだ。

残りも何カ月も床に就くことになった。

で、労働力が足らない。

ここで真っ先に考えたのは、祖国から貧しい労働者を移民させることだったのだが、同じ白人では、高い金を払って連れてきても、これらの病気で死んだり寝込んだりする確率は非常に高かった。

ところが、これらの病気の存在するアフリカからの労働力なら、罹患と死の確率は白人の三分の一だったそうだ。

つまり、白人プランテーション主が貧しい同胞でなくて黒人を買ったのは、

黒人であれば家畜のように働かせることができるからではなく、

黒人の方がコストパフォーマンスがよかったからなのだ。

貧しい同胞は同胞ではなくて、家畜と変わらない。

ただ、より「丈夫な家畜」が欲しかっただけだ。

確かに過酷な条件で働かされる農奴をはじめとして同人種内の強制労働などは古今東西どこにでもある。

人間社会の支配構造は、人種がどうのこうのと言うよりとにかく「安い労働力ほどいい」という経済原理に支配されているのだ。

まあ、その結果、病への抵抗力もあって強靱な「奴隷」が生き残って、そういう遺伝子強者たちが差別されて被支配されているという不自然な状況が生まれた。

それを正当化して維持するためにいろいろな理屈や対策が立てられてきたのだろう。

黒人奴隷は新大陸ご用達で、ヨーロッパ本土にはほとんど黒人奴隷労働の歴史がないのは、自分たちだけで間に合っていたからである。

安上がりの地産地消の貧民が充分にいたからなのだ。

黒人やアメリカ・インディアンは、「珍しい生きもの」でしかなかったわけである。

別に本土のヨーロッパ人が立派だったからではない。

まあ、分かりきったことではあるけれど。

差別意識に関することは、考えようとするといつもどこかに罪悪感があったり歴史的偏見や刷りこみによる妙な思い込みがあるので、分かりきったことでも常に確認しながら思考しなければいけない。
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by mariastella | 2013-02-21 00:47 | 雑感
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