L'art de croire             竹下節子ブログ

B16の最後の一般謁見

B16の最後の一般謁見をTV中継で見た。

予定の10h30を過ぎても教皇用の車が姿を現さないので、ヴァティカンではすべてがきっちりと時刻通りなのに…と解説者が何度も言っていた。

結局8分ほど遅れて、前に防弾ガラスの覆いのあるオープンカーがゆっくりと広場の群衆の間を進んだ

前は防弾ガラスだが両脇には何もなく、これでは誰かに襲われたら危険ですね、と解説者が思わず言うほどにそれは頼りなく思われた。

けれどもB16は笑みを浮かべてリラックスしているように見えた。

時々両脇からの通路から赤ん坊が差し出されて、同乗しているゲンスヴァイン司教が抱き取ってはB16に祝福してもらっている。

この私的秘書は、ヴァティリークスで内部文書を漏洩させた側近らとは違って、B16が教皇になる前からずっと秘書をしていた同国人で、JP2の告解司祭も務めていた。

イタリア女性から「Padre Georg」とか「 Bel Giorgio 」とか呼ばれて大人気のハンサムな男性で、この人がそばにいることはB16にとっていいなあ、と思ったことを私は前に書いたことがある。
(リンクページの中の「B16について(その2)」に書いている。)

2007年にはデザイナーのヴェルサーチがこの人の「厳しさとセクシーさとが共存しているところ」「自然なエレガンス」にインスパイアされたスーツをデザインしたことでも話題になった。

ハンサムな男が女に仕えずに男に仕えていれば必ず同性愛を疑う輩もいるので貶める人もいるが、それくらいにすてきな組み合わせだと思う。司教はB16と共にカステル・ガンドルフォや修道院で暮らすことになっているらしい。心強い。

その二人が赤ん坊を抱き寄せていい笑顔になっている。


パリは冷え冷えとした曇り空だが、ヴァティカンは抜けるような青空。

JPの葬儀の時には、国家元首の死ということで前列にずらりと大統領だの王族などが並んでいたけれど、この日は、枢機卿たちは別としても、以前から毎水曜日の教皇によるカテキズムに登録していた人々が優先的に前の椅子席に座っている。

しずしずと進んでくるのが棺ではなくて、生きて微笑ほほえんでいる教皇というのは気持ちがいい。

これが他の政治リーダーの交替や国王の譲位なら、敗者と勝者があったり、すでに継承者が決まっていたりするわけだが、B16は「親政」をしていたままリタイアして空位にするのだから「次の権力者」みたいな人がでしゃばっていることもないのですがすがしい。

クリスマスには一人で歩けない雰囲気だった教皇は、車を降りてから、杖もつかずに歩いた。

在任中に数々の困難に出会ったことを認め、「神の前で私のことを覚えていてください」と訴えたのも好感が持てた。(背負っていた)十字架をおろすわけではない、すべての人と共に生き続ける、というコメントもあった。

信仰と理性が両立することを常に言っていた人の誠実さが伝わる。

信仰の次元では、教皇「職」の辞任など、絶縁でも終焉でもないということが分かる。

「わたしは弱いときにこそ強い」(第二コリント12:10)という聖パウロの有名な言葉が実感として伝わってくる。

次の教皇は、雰囲気的に私の好みはカナダ人のMarc Ouellet枢機卿だ。

ウィーンの大司教でラツィンガーの教え子だった68歳のChristoph Schönbornという人がB16のあげている新教皇の条件にぴったりだという声もあるが、二代続けてドイツ語圏、旧ハプスブルク王朝圏出身の教皇という確率は少ないかもしれない。

こう考えてくると、ヨーロッパの国を二度続けては開催地にしないで大陸を変える、と言われているオリンピック開催国の選考のような部分もある。

地政学的に言えばやはりアルゼンチンあたりで、アフリカはまだ時期尚早だとか。

まあ、聖霊がどのように働くのかは分からないが。

コンクラーベの日取りは来週月曜あたりに発表されるのではないかと言われている。

もう全枢機卿がローマに集まっているので、来月10日あたりには始まるとも予測されている。

教皇の死後15日から20日の間に開催という今の規定は、世界中の枢機卿が船に乗って集まらなくてはならなかったような時代に決められたものなので、早められるなら早める方がいいということだろう。

B16が最後の謁見をした日の前の夜、フランスではHenri CaillavetとStéphane Hessel
が、それぞれ、99歳と95歳で亡くなった。二人とも第二次大戦中にヴィシィ政権に敵対したりレジスタンス活動をしたりした人で、一つの時代の終わりを感じさせる。

ステファン・エッセルといえば、つい数年前『怒れ、憤れ』の小冊子が世界的ベストセラーになった。

その後も本を出したりメディアに出続けたりしていた。つい先週だかのLe Nouvel Observateur誌でもインタビューに答えていた。

「死ぬまで現役」の一例だ。

日本では90歳以上の人がベストセラーを出したりすると、すぐ「長生きの秘訣」とか「健康法」のマーケットの対象になってしまうが、「中高年の憧れ」になるのではなくて若者たちを鼓舞して社会に対する意識を変えてしまったのだから頼もしい。

こういう人たちも、年齢の物差しを超えて信念に生き続けるという意味で、ある種の信仰者と同じ普遍性を体現しているのだろう。
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by mariastella | 2013-02-28 07:47 | 宗教
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