L'art de croire             竹下節子ブログ

『リンカーン』スティーヴン・スピルバーグ

スティーヴン・スピルバーグの『リンカーン』、主演のダニエル・デイ=ルイスは好きな方だからおくればせながら観に行ってきた。

スピルバーグの映画らしくうまくできていて、みている間は充実感があるのだけれど、白人の白人による白人の映画という感じがしないでもない。

ジョン・フォードが昔『The Prisoner of Shark Island(1936)』という映画を撮っていて、そこではリンカーンの暗殺者の負傷を手当てしたために共犯として終身刑になった(後に恩赦された)南軍派の医師Samuel A. Muddに焦点が当たっている。その複雑さに、リンカーンの崇拝者や反対派の確執の根強さや復讐のポピュリズムについても考えさせられてずっと陰影に富む作品だった。

この映画の方は、時代を二ヶ月ほどに絞ったせいか、リンカーンがインディアンを抹殺した話や、アメリカが南北戦争終結から100年経ってもまだ黒人をしっかり差別していた事実や、奴隷制廃止だってイギリスやフランス(革命で廃止したものをナポレオンが途中で再導入したりはしたが)の方が早かったじゃないかとか、いろいろなことがかえって頭に浮かんで、すなおに感動できない。

ひいては第二次大戦中の日系移民の隔離とか原爆のことまでちらりと頭をよぎる。

いや、実態はどうあれ、時々、勇気ある人が理想論を熱く語って万人の自由と平等の理念を掲げることで、本音によってたとえ引き戻されても、少しずつは世界はよくなってきたのだから、こういうお話しに時々感動することは必要なのかもしれない。

まあ、リンカーンの特徴あるなじみのシルエットを見ても、マルファン症候群のことをつい思い出してみたり、アフリカ人の父と白人の母を持つオバマ大統領を何かというと「黒人」とレッテルづけることへの違和感(前にも書いたが彼のようなハーフがケニアで大統領になったら絶対に「白人初の大統領」などとは形容されないだろう)まで想起されたりと、なかなか尊敬の念がわいてこない。

妻とのやりとりや長男かわいさの煩悩が出てしまうなど「人間的なシーン」がうまく挿入されるのだが、その苦悩ぶりも恣意的で紋切り型の演出という気がしないでもない。

でも、リンカーンの名前が「エイブラハム」でつまり、一神教の父アブラハムで、被創造物の平等をきっちり神の前の平等として納得させているところなどは、アメリカと民主主義と神の関係をあらためて考えさせられて興味深かった。
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by mariastella | 2013-03-12 09:35 | 映画
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