L'art de croire             竹下節子ブログ

コンクラーベがもうすぐ始まる。

いよいよコンクラーベの日(これを書いているのは12日)で、16h30に枢機卿たちがシスティナ礼拝堂入りした後で、今日は一回だけ投票が行われて黒い煙が出ることになっている。第一回の投票で上がった名前が、最終的に候補者となって、みながそれを一人に絞っていくわけだ。

イギリスの賭けをはじめとしてどこの予想でも一番強いのはやはりアンジェロ・スコラだ。

アメリカにも留学経験があり、政治力もあり、ヴァティカンの派閥なども掌握しているので内部改革にに本当に手をつけられるのはやはりイタリア人のこの人しかいない、というのと、ベニスの大司教時代にイスラムとの対話を目的としたシンクタンク「オアシス」を創設したほどに、外部との軋轢に対処するにも適任者だということだ。

年は71歳だが至って健康だそうだ。

世界最大の司教区であるミラノの大司教に任命したのはB16であり、その時から事実上の後継者と見なされてきた。B16がまだ存命なのだからそのままスコラが後を継ぐ可能性は確かに高い。

司教会議の議長が私のお気に入りのマーク・ウェレットだ。

気に入っているのは外見と雰囲気だけど。

アイスホッケーなどをする動画がいろいろあって、顔も「やわらちゃん」に似てて親しみやすい。

ただ、けっこう内気な人だそうだ。年は68歳とスコラより少しは若い。体力の衰えがB16のリタイア理由のひとつだから、今回は年齢は重要なファクターになるはずだ。

もう一人の個人的お気に入りはホンジュラスのOscar Andres Rodriguez Maradiagaだ。9カ国語を話すという。

ローマでの神学哲学の博士号の他にインスブルック大学で臨床心理学の博士号とWikipediaにはあるが、別のところでは化学と音楽の博士号もあると書いてあった。インタビュー記事ではオルガン、ピアノ、サクソフォン、クラリネット、コントラバスなど複数の楽器を弾けると答えていた。2009年ホンジュラスの革命にも影響を与えたとも言われる社会改革型の人物だ。

有力候補の中で一番若いのはブラジルのサン・パオロのシェレール枢機卿で63歳だが、この人って、両親がドイツ人(B16と同じだ)の移民で、青い目だ。ブラジルだからポルトガル系だろうとかインディオとかを想像すると全く違う。

それをいうならアルゼンチンのブエノスアイレス生まれのレオナルド・サンドリJorge Mario Bergoglio枢機卿も、スペイン系ではなくて両親がイタリアからの移民だった。

そう、日本のような国にいるとなかなかピンとこないが、マルチ・ナショナルのカトリックのナショナルな部分だって多くの移民で成り立っているので、それなりの普遍性があったり出身地の共同体意識があったりとなかなか奥深いのである。

というわけで、次の教皇が誰になるかをウォッチングするのはそれなりに楽しみなのだが、実は私にとって最も興味のあるのは、別のところにある。

神父たちは、いずれも、神からの召命を受けて、つまり、主観的には、個人的に神から名を呼ばれて、神のために命を捧げることに同意して従った人たちで、独身制を受け入れて、ひたすら神と教会のために尽くす人生を比較的若くして選んだ人たちだ。

独身制だから世襲はない。

つまり、今の日本のお寺の住職のように「家業」としての側面はなく、むしろほんとうの意味での「出家」の意識がある。

もちろんたとえばルネサンスの頃にはイタリア貴族らの聖職売買やらの時期などはあったわけで、それが度々の宗教改革を促してきたわけだが、特に現代の欧米で敢えてカトリックの司祭職を選んだ人たちは、少なくともいったんは、イエス・キリストにだけ心と体を向けて生きることをよしとして世俗に背を向けた人たちなのだ。

しかも、今回の教皇選の対象となるような70歳前後の枢機卿たちというとほぼ第二次大戦後世代であって、グローバリゼーションや通信革命なども目の当たりに見てきた世代である。

一昔前のように、村人が全員カトリックで、神父になることが地域のためにも家族のためにも栄誉だったり、「出世」だったり、高い教育を受けるチャンスだったりというようなこともない。

青年が神父になった時点で、ヴァティカンの中枢に近づこうとか枢機卿になろうとかを目指したとは思えない。

若くしてほんとうに「出世欲」がある人には、ビジネスマンや政治家などを目指す道がいくらでもあるのだし、野心は聖職者としてのカリスマ発揮にとってはマイナスに働く。

むしろ、そういう野心からは基本的にはかけ離れた人たちが、司祭職を選んで、「神のみ旨」でいつの間にか高位聖職者になっていたという場合の方が多い。

そして、その頂点が、そこいらの小国の首長など問題にならないほどに国際社会でスターの座をしめる教皇の地位なのだ。

世界最大で最古の宗教法人のトップであるとともに世界中の12億の信者の崇敬のシンボルとなる存在であり、今の情報社会ではメディアからも注視され、無神論イデオロギーからは容赦なくたたかれ、揶揄されるスケープゴート的存在でもある。

司祭や聖人には、教育のない素朴な人も少なくないが、今のカトリックで枢機卿になるような人は、みな多国語を話し、神学の学位もあり、国際的なポストを歴任してきている。

けれども、彼らの出発点は必ず、聖なるものとの親密な関係であり、若い男性が、イエス・キリストとの「同行二人」とはいえ、誘惑の多いこの薄っぺらな消費社会で、ある意味では孤独な道を選んだ。

そんな青年が、普通のサラリーマンならそろそろリタイアして悠々自適というような年になってから、突然、世界中から注目される舞台に引きずり出される。

くらくらするようなその落差に、どのように対処するのか、それが、私には一番興味のあるところなのだ。

まあ、その落差を支えるのは人間業でなくて、それこそ信仰の業なのだろうけれど。

年齢を重ねると、若くて信仰心のある人とはまた別のタイプの信仰心が育つということは、私もこの頃なんとなく分かってきた。

B16は、カトリックの刷新を目指す気鋭の神学者ラツィンガーだった1967年に、

イエスの誕生について「信仰の語る神との父子関係というのは生物学的事実ではくて存在論的事実である」「ゆえに、もしもイエスが結婚によって生まれたのだとしても、イエスの神性という教義は揺るがない」と書いていた。

その人が、45年後には『イエスの幼年時代』で

「処女マリアによるイエスの受胎と誕生は私たちの信仰の根本となる要素であり希望のシグナルである」

と言いきっている。

これについては、ローマ法王になったから保守的になったのだとか、1968年以来の脱キリスト教化やポストモダンの相対主義に反発して反動的になったのだとかいわれているのだが、そうとは限らないと思う。

人は、若い時の方が、「検証できないことは信じられない」というようなかえって狭量な考えに陥ることがあるし、また、逆に、矛盾を統合する度量をあえて見せようともする。

でも、年を経ていろいろな現実を見て、無力感や絶望の試練もくぐって、最後には、やはり、素直でシンプルな信仰に希望を見出すということは大いにあるだろう。

年とったから頑迷になったとか保守的になったとか子供返りしたとかいう話ではなく、試行錯誤しながら一回りして、芯は強靱だが、表面の力はいい具合に抜けた境地に達するのかもしれない。

独身で教会への忠誠、従順、謙遜などを徳として受け入れてきた青年たちのうちで、世界規模のふるいにかけられてついに枢機卿や教皇の位置に到達するような人は、ただ者ではあり得ない。

子供の頃から先代の生まれ変わりだと認定されて貴族たちに仕えられて育つダライラマだの、王や独裁者の跡取りとして生まれて帝王教育を授けられて育つ指導者だの、莫大な資金を調達して選挙活動を展開して選挙戦に勝ち抜く野心的な政治リーダーだのとは全く別世界にありながら、そういう人たちとも渡り合っていかねばならないローマ法王って、やっぱりウォッチングに値する。
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by mariastella | 2013-03-13 00:54 | 宗教
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