L'art de croire             竹下節子ブログ

新教皇フランチェスコが選出された

13日の午後、5回目の投票で、新教皇フランチェスコ一世が選出された。

(次にフランチェスコ二世を名乗る教皇が登場するまでは「フランチェスコ」だけであり一世とはつけないと教皇庁が発表してメディアに訂正を要求した。以下の記事も訂正しておく)

(この記事は日本時間だと14日付の2つ目の記事ですが、フランス時間の13日のローマ法王選挙の午前の投票と午後の投票の後にそれぞれ書いています。前のものからどうぞ)

午後7時5分、白い煙が上がった。
鐘も鳴り始めた。
新教皇が選出されて、それを受諾したという合図だ。

雨もよいのサン・ピエトロ広場にはもうかなりの人が集まっていたが、ローマ中から老いも若きも家族総出で駆けつける人がどんどん増える。

決まった。

みんなが大喜びで興奮している。

でも、誰が選ばれたのかは分からない。

巡礼団はそれぞれの国の国旗を振っている。

ブラジルの旗が目立つ。韓国の旗もあった。

「例えは変ですけれどサッカーの選手権みたいな騒ぎです」、とTVのレポーターが言っている。

決まったが、まだ、それがどこの国の誰かは分からない。

このタイムラグが独特の雰囲気を醸し出す。

コメンテーターは時間稼ぎのためにまだ予測をいろいろ言っている。

「第一回の投票ではB16に敬意を表してB16の名を投票した人もいるそうですよ」、とみてきたようなことをいう人もいる。

アメリカは選挙権のある枢機卿団が11人で、サッカーチームみたいに結束して記者会見していたとか、アメリカ人の教皇にトップに立ってほしくないという中南米人を牽制してオバマ大統領がが「いやアメリカ人だってブラジルとかグアテマラとかの人と互角にやっていけますよ」と言っていたとか。

だから中南米人の感情を考慮して、アメリカ人が選ばれるなら、いかにもアメリカンなNYのドランではなくてカプチン会士で清貧で有名なボストンのオマリーだろう」などなど。

でも、63歳で教皇庁のベテランであるブラジルのシェレールではないかという予測が高まってきた。

歓喜の涙を流している巡礼者もいる。

みんなが楽しそうな様子は確かにスポーツの国際大会のようでもあるが、ともかく、白い煙が出た時点で、まだ誰なのかは分からないのにもう新教皇をみなが受け入れて待っている、という伝統的な光景が続く。

VIVA IL PAPA(教皇万歳)の幕があちこちで振られている。

これが大統領選の結果待ちなどなら、勝者が決まると同時に敗者の陣営も決まるわけだが、教皇選は一体誰と誰が最終的に決定投票に残ったのか誰も知らない。

新王の即位などなら、もう新王が誰なのかは当然みなが知っている。

教皇選の、この、白煙が上がってから名の発表までの一時間ほどはほんとうに独特だ。

この間に新教皇はすべての枢機卿を祝福し、みなが祈り、新教皇は嘆きの間と呼ばれる更衣室で自分の背負うことになる重荷を前にして一人泣くことになっている。そして三種のサイズのある教皇用の白服やら赤い靴を選んで着替えてからバルコンに出ていくのだ。

楽隊が大聖堂の前に進み、スイスの衛兵たちもそれに続く。

フランス人のトラン枢機卿が出てきて名前と教皇名を発表する。

アブラムが神に選ばれた時にアブラハムと新しい名を与えてもらい、ヤコブがイスラエルという名になり、シモンがペトロとなったように、新しい使命を帯びた人は新しい名を受け入れる伝統がある。

これまでローマ法王で一番多く使われたのは23世までいるヨハネである。新しい名によって、新教皇は国籍などを超越してローマ司教となるのだ。

選ばれたのはアルゼンチンのJorge Mario Bergoglio(ホルヘ・マリオ・ベルゴリオ)だった。

ピエモンテからの移民の両親を持つイタリアルーツの人だ。

しかも、76歳。

B16が選ばれた年齢とたいして変わらない。

年齢を考えた時にちょっと失望した。

さっきまで歓喜に沸いていた広場はシーンと静まり返った。

Jorge Mario Bergoglioの名を聞いてもだれもあまりぴんとこなかったのだ。

バルコンに目が釘付けになる。

眼鏡をかけた新教皇が現れた。

フランチェスコ1世だ。

リラックスしている。

笑みを浮かべて、まずローマ市民にローマ司教としてあいさつする。

それから、B16のためにまず祈りましょうと言い、みなさんを祝福する前に、神が私を祝福してくれるように祈ってください、と言った。

教皇といえば信者たちは祝福してもらうのを待っているのだが、自分のためにも祈ってくれと言われたのは初めてだ、と後のインタビューで多くの人が言っていた。

上から目線ではなくて、謙虚な奉仕型の人だという印象をみなに与えた。

結局は、国籍とか地位ではなくて、この一瞬に人々の心をつかめるかどうかなのである。

化学、文学、哲学、神学、スペインやドイツにも留学。

「お休みなさい、みなさん、ゆっくり休んでください」とシンプルに言って去ったのも力が抜けたいい感じだった。

コンクラーベに入る前の評議会では多くの枢機卿が今後の改革について政治的な議論をする中で、フィリピンのタグレとアルゼンチンのこのベルゴリオ枢機卿の2人だけが「心から語っていた」そうで、その人柄はみなに受け入れられたのだろう。 

化学、文学、哲学、神学を学び、スペインやドイツにも留学したそうだが特に語学堪能というわけではなさそうだ。

2006年にユダヤのラビAbraham Skorka14との共著Sobre el cielo y la tierraがあることから、今後のユダヤ教との関係に希望が持てる。


B16が心身の衰えを理由にリタイアした後では、若い教皇が期待されていたのに今のB16より満10 歳の差もない教皇では先行きの健康状態がまた気になるところ(20歳で片肺切除しているそうだ。大丈夫かな)だが、リラックスしてシンプルだ。 

いい点もいろいろある。
 
何といっても、信者数でいうと世界のカトリックの半数以上を占める南米大陸出身のはじめての教皇だということである。ヨーロッパ限定の時代は終わった。新しい時代の到来のイメージはある。 
今回投票した枢機卿115人の半数以上の67人がB16に任命された人たちであるのに、フランチェスコ教皇はその一世代前の枢機卿で2005年のコンクラーベですでにラツィンガーの対抗馬とみられていた人(決選投票に残った)であるくらいだから、B16とは別の新しい路線を自由に進む可能性もある。 

イエズス会ではじめての教皇であることも注目だ。イエズス会は、その組織力やら実行力やらネットワークやらで、激務への耐性がありそうだ。現にこのフランチェスコはアルゼンチンの軍事独裁政権に対しても徹底的に抵抗してきた。婚外子の洗礼を拒むアルゼンチンの司祭を批判もしている。 

フランチェスコの名を選んだのはイエズス会のフランシスコ・ザビエルと関係があるかもしれないが、やはりアッシジのフランチェスコだろう。イグナチオなどという名ならあまりにもイエズス会色があって違和感を持つ人がいるかもしれないが、清貧のフランチェスコというのは好感度が高い。実際フランチェスコ教皇は公用車に乗らずに公共機関を利用していたくらいで、自炊をし、質素な暮らしを守り、いつも貧しい人の側に立っている人だそうだ。

アルゼンチンではイタリアなどとは全く別のタイプの貧困があるから、それを現場で知っている人は強い。

2001年の聖木曜日にはブエノスアイレスのFrancisco Muniz病院でエイズ患者12人の足を洗った。

「カトリックという巨大組織の頂点に立つ教皇というよりは、世界中の信者の司祭さんという感じですね」
とコメントをした人がいた。

結局、これから、教皇庁の内部改革に手腕を発揮できる教皇助祭を任命してきっちり守備範囲を分けていくということも考えられる。

新教皇フランチェスコが各国の大使などを公式に謁見するのはイエスの父聖ヨセフの祝日である3月19日となる見込みだ。
ぴったりの祝日だ。

ペトロの巨大な船がこれからどうやって動いていくのか、今しばらく注目していきたい。
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by mariastella | 2013-03-14 07:56 | 宗教
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竹下節子が考えてることの断片です。サイトはhttp://www.setukotakeshita.com/
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