L'art de croire             竹下節子ブログ

Le Métis de Dieu

『Le Métis de Dieu』はARTEのテレビ映画で、今はまだネットで全編を見られるようだが、はっとさせられるところが多い番組だった。

ユダヤ人の監督が撮ったパリの前大司教ジャン=マリー・リュスティジェの物語で、特に、後半は、アウシュヴィッツのカルメル会が出ていくにあたって彼がどのような役割を果たしたかということに焦点が当てられている。

タイトルにある「メティス」とは混血児のことで、リュスティジェがカトリックに改宗したユダヤ人だったことを指している。

彼は、ある日教会で十字架のイエスを見て回心し、カトリックになってからはじめて、自分がイエスのようにユダヤ人であることを実感したという。

私はもちろん、 リュスティジェが、第二次大戦中ユダヤ人狩りを逃れてカトリックの家庭にかくまわれていたことや14歳でカトリックに改宗したユダヤ人であることを知っていた。

他の個々の話、つまり、

エディット・シュタインというユダヤ女性がカトリックに改宗しカルメル会に入ってからナチスに捕らわれてアウシュヴィッツで殺されたこと、後にカトリック教会から「殉教者」として列聖されたこと、

ポーランド人教皇のヨハネ=パウロ二世が故国ポーランドを共産主義陣営から脱落させるためにあらゆる手を使ったこと、

アウシュヴィッツの中の劇場後に女子カルメル会が一時居を定め、そのことが物議をかもしたこと(つまりユダヤ人の墓としての聖地をカトリックが変容させてしまうという抗議)があったこと、それがついに撤去されたこと、

などなどについても、かなりよく知っていた。

それらのことについてコメントしたこともある。

けれども、この四つの事項が、抜きがたく有機的に絡まっていることについて、意識して考えたことはなかった。

エディット・シュタインの列福が1987年というタイミング(列聖は1998年でシエナのカタリナなどと並んでヨーロッパの守護聖女にされている)であったことの重要性も、『聖者の宇宙』(中公文庫版P168-9)でユダヤ人の抗議にも触れながら、JP2の戦略やカルメル会引っ越しの騒ぎとは直接結びつけて考えていなかった。

そして、アウシュヴッィツが冷戦時代の40年間に、どのように共産主義イデオロギーに利用されていたのか、「ポーランド人の犠牲」という言葉と「ユダヤ人の犠牲」ということがどのようなバランスで語られていたのか、それもホロコースト否定の歴史修正主義に至るまでがその中で生まれていたことも含めて、深く考えたことがなかった。

この映画の中でリュスティジェがJP2に「あなたは偽善と外交を混同している、教会の利益とポーランドの利益を混同している」、と詰め寄るシーンがあり、それをかわそうとする老獪な教皇の態度を見ていると、当時の彼らの葛藤や信念がストレートに伝わって来て、エディット・シュタインやカルメル会の立場などが、パズルのピースがカタカタ音をたててはまっていくような感じでつなぎ合わさっていく。

このことについてはまた別の機会に書くことになるかもしれない。

私は生のリュスティジェを2回しか見たことがない。2回とももちろんパリのノートルダムだった。

最近彼のことを思ったのは、やはりノートルダム大聖堂で、2月に新作の鐘の名として刻まれた「ジャン=マリー」の文字を見た時だ。

この鐘は復活祭の聖週間の始まりを告げる「枝の日曜日」の前に鳴らされた。

復活祭の日曜日にも、さぞや高らかに、鳴り響くことだろう。
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by mariastella | 2013-03-31 07:13 | 宗教
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