L'art de croire             竹下節子ブログ

11.6

フィリップ・ゴド―監督、フランソワ・クリュゼ主演の、犯罪実話をフィクション化した映画だ。

2009年にリヨンで現金輸送車の運転手が1160万ユーロ(約15億円くらい)の現金を横領した話である。

誰も傷つけていず自首したので、単純窃盗罪で3年の実刑、それに保険金詐欺が加わって5年になったから、来年釈放されるはずだ。

判決時の、GPS搭載の足輪をつけての釈放という選択は本人が拒絶したらしい。

見つかっていない金がまだ250万ユーロくらいあるので、他の受刑者に対する身の安全のために独房に入れられているそうだ。

金が見つかるまで輸送会社が支払いのために借り入れの利子など、もろもろの損害賠償や裁判経費など273 986、84ユーロが請求されている。

この俳優が前にやはり犯罪実話をベースにしたおもしろい映画『A l'origine』を演じていたのがとてもおもしろかったので、どこかで同じような痛快さを期待していたのだけれど、今回のはずっと地味で暗い話だった。

そもそも、この主人公がスウェーデンの輸送会社に働くユーゴスラヴィア人だったという事実に考えさせられてしまう。

現在のようにヴァーチャルな投機マネーが世界をめぐっていて、個人の収入も支出もヴァーチャルな数字だけで現れるような世界で、即物的な札束というのがやはりあるんだなあ、という当たりまえのことと、防弾チョッキをきて武器を携帯しながらそれらを輸送しているのが、外国系の会社で働く外国人で給料が残業を入れても1700ユーロほどでしかない小市民であることの取り合わせの意外さとが印象的だ。

主人公の友人で白ネズミのペットを連れて働いている男と、レストランを経営している恋人のキャラクターがまたユニークだ。この三人のうまさというのは、リアリティなどとは関係がなく、最小の演技で人間性の裏表を喚起してしまうところにある。そういう意味では、『愛、アムール』などよりもずっと映画らしい映画だ。

友人が大晦日のパーティの夜に一人で雪の中を帰っていくシーンの美しさと表現力にもはっとさせられた。

被害額が11.6ミリオンというわけなのだが、本来は、保険の関係で輸送車には一回600万ユーロ以上を運べないことになっているらしい。それを効率のために2倍近く積みこんでいたわけで、この会社の管理職たちはこの事件が明るみに出てからみな責任をとらされて退職した。

それが主人公の会社に対する復讐でもあり、行き過ぎた自由競争の経済システムへの批判にもなっている。

しかし彼自身、酒もたばこもやらずただひたすらに働いて貯めた金でフェラーリを落札するなど、現金横領の以前から普通の意味では常軌を逸したところがある。赤いフェラーリとスポーツジムでの禁欲的な訓練の対照が印象的だ。

フランソワ・クリュゼは近頃どんな役をやっても魅力的で、その彼のうまさが主人公の不思議なキャラをさらに補強して、人間ドラマとしてはおもしろい。でも、事件ドラマとしては、いまひとつインパクトに欠けてカタルシスが得られなかった。
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by mariastella | 2013-04-13 07:46 | 映画
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