『Contes et son double Enquete sur une mystification』 de Christien Duverger Seuil
という本は、アステカ文明の専門家である歴史学者で考古学者、人類学者でもあるクリスチャン・デュベルジェというフランス人が最近出したものだが、スペインでちょっとしたスキャンダルになっているそうだ。
ベルナル・ディアス・デル・カスティーリョという人によって1550年ごろに書かれ、1632年に出版されたエルナン・コルテスの『メキシコ征服記』が実は、コルテス本人のであるだと推理して見せたからだ。
この本は、メキシコの情景が生き生きとと書かれ、シーザーの『ガリア戦記』に比せられる叙事年代記として文学的にも歴史の一次資料としても高く評価されている。
コルテスは1540年にスペインに戻り、1547年に死んだが、カルロス五世からは冷遇されたので、この本を口述筆記して残すことで、メキシコにおける自分の権利を子孫に伝えようとしたらしい。
その目的で手稿はコルテスの息子の一人によってスペインから新大陸にもたらされ、グアテマラの老ディアス・デル・カスティーリョの手に渡ったという。
その後いろいろな経緯があって、ベルナス・ディアスの死後にその息子が手をいれたりして、ディアスの作ということになった。
そもそも私にとってコルテスといえば、たった383人の兵を率いて何百万人ものアステカ人を制覇したヒーローという神話よりも、天然痘をもたらしてアステカ民族を滅ぼしたとか虐殺したというイメージの方が強かったので、『メキシコ征服記』というものもなんだか植民地主義のホロコーストの恥ずべき記録のような気がしていた。
けれども、それは現在のスペインやヨーロッパ自身が歴史の過ちだと評価を下していることをそのまま受けとっていたわけで、『メキシコ征服記』がスペイン主義とキリスト教至上主義を見事に正当化して見せる熱い本だという視点から読めることなど思いもつかなかった。
でも、これらの「戦記」は、何よりも、カルチャーショックの証言として生き生きとしている。
もちろん、外敵に突然侵入されて文化を破壊された側から見ると、カルチャーショックどころではなく一方的な攻撃だったわけだが、当時のスペイン人にとっての「新大陸」の魅力というのは、今の私たちが宇宙や月や他の惑星に抱く好奇心や憧れよりももっと強烈なものなのだったろうことが伝わってくる。
コルテスが桁外れの人物だったことは事実で、そんな征服者の魂を持っていた人が文才も併せ持っていたというのは興味深い。
ナポレオンの『セント・ヘレナ回想記』のことをどうしても考えてしまう。