昨年パリの近郊モントルィユ市に公的資金が投入された高齢女性のグループホームが建った。
もう10 年も前からプロジェクトがあったのだが、女性限定というのでは両性の平等を保証する憲法違反ではないかというのでなかなか実現しなかった。
しかし提唱者である86歳のフェミニストであるテレーズ・クレールが2008年にレジオン・ドヌール勲賞を授かったこと、同年に緑の党の女性がモントルイユの市長なったことが後押しして着手され、2012年10月に完成したのだ。
市民精神、連帯、無宗教、エコロジーが四つの柱となっている。
今は60歳から87歳の女性21人が自治管理している。
一人一人はシャワー、キッチン付き35平米のワンルームに住み、一階には200平米の共同スペースがあっていろいろな活動が展開されている。
活動といっても、単にダンス教室みたいなものだけではなく、今の社会で老いるということについての議論や啓蒙活動が中心だ。共同生活者に介護が必要となったり認知症になったらどうするかなどについても話し合いが繰り返されている。
テレーズ・クレールは普通に結婚して4人の子の母となった人だが、68年の5月革命で「自由」に目覚めて離婚し、以来フェミニズムの闘士として活躍してきた。
今年のインタビュー・クリップにはヌード写真まで載っているのだが、堂々として楽しそうでかっこいい。
老いに対する社会の視線を変えたいという意気込みの成果がもう出ている。
で、このグループホームの名前が「オニババの家」なのである。
いや、「La Maison des Babayagasメゾン・デ・ババヤガ(ババヤガたちの家)」という名だ。
バーバヤーガはスラブ神話に登場する妖婆で森の中にすみ子供などをとって食う。
オニババと限りなく似ている。語感もオニババと山姥を足したような迫力だ。
そういえば昔、『オニババ化する女たち』という本(年輩の読者からフランスに送られてきて感想を求められた)があって「社会のなかで適切な役割を与えられない独身の更年期女性が、山に籠もるしかなくなり、オニババと」なるとされていた。
日本のグループホームのネーミングを見てみると、「ひまわり園」(幼稚園ですか…)とか「くつろぎ」「やすらぎ」「のどか」などで、「オニババ」なんてあり得ない。
フランスのオニババの家、いやババヤガの家は、他の都市にも同じプロジェクトが立ち上がっているそうだ。同じモデルでババヤガ・チェーンの展開となるようである。
オニババにはなりたくないがババヤガにはなっていいかも。