L'art de croire             竹下節子ブログ

『Song for Marion(アンコール!!)』(監督 : ポール・アンドリュー・ウィリアムズ)

映画『Song for Marion(アンコール!!)』を観た。

老夫婦の話。

ガンが再発して余命2カ月とされた妻は地元のコーラスクラブが挑戦するコンクール予選で夫に捧げる歌をソロで歌う。妻の死後に、あれほど気難しそうだった夫が実は歌を歌えることが分かり、夫は、妻の仲間たちをバックコーラスにして妻に捧げる歌を歌う。

夫は権威的で一人息子との仲がうまくいっていない。

その一人息子は近所に住んでいるのだが離婚して週末に8歳の娘の面倒を見ている。

明るく前向きな妻を中心に息子や孫も夫婦のところでは団欒の時間を過ごすしていたのだが、妻が亡くなると、父と息子は決裂する。孫娘は心配する。

自分が死んだ後の息子のことを心配する妻に、夫が「わかった、面倒みるって約束するよ」と言うシーンがある。

普通なら老いてひとりになる父の方が息子に面倒みてもらわなくてはならないはずだけれど、夫婦の間では息子はいつも世話してやらなければいけない対象であり、その視線の共有が親としての2人の絆をうまく現している。

また、妻の死後に歌を口ずさむ夫に驚いたコーラス教師が「マリオン(妻)はあなたが歌うって知ってたの?」と訪ねると夫がうなずくところもいい。

夫は別に歌が嫌いとか歌えないから妻のコーラス活動に理解を示さなかったわけではなくて、本当は歌が上手なことも妻はちゃんと知っていたのだ。夫婦の仲は外からは分からない。

まあ、そのようななかなかよくできたディティールを重ねていくのだが、余命宣告とかコンクールとか、サスペンスを盛り上げて一気に感涙を誘うような仕掛けがあまりにも常套的だと言えば言える。

実際、テレンス・スタンプとヴァネッサ・レッドグレイヴという2人の名優をこんなお涙ちょうだいの安易な映画で見たくなかったという厳しい批評もあったほどだ。

しかしこういう名優2人がこういう予定調和的なストーリーに参加しているからこそ、観客は安心して感涙に淫することになるのだ。

無口でどこか不器用な夫と明るい妻という組み合わせは、きっと一昔前のイギリスの庶民にはめずらしいものではなかったのだろう。
どこか日本的でもある。高倉健と倍賞千恵子でリメイクできそうなカップルだ。

『愛、アムール(老夫婦の晩年)』と『シスター・アクト(歌わなかった人が歌によって心を開く)』と『シスター・アクト2(コンクールに参加するところ)』とこの前見た『カルテット(老人のグループと音楽)』の要素を全部合わせた感じの映画であるが、他のものにはなかった独特の「救い」も感じられる。

父と子の問題や孫娘や若い独身の音楽教師も配して全方位的にできているとはいえ、これからは先進国ではリタイアした夫婦がどんどん増えるし、老親を介護する人も増えるのだから、往年の名優を使って、どうやって老いてどうやって死ぬかというテーマの映画はもっともっと作られるかもしれない。

今この『アンコール!!』を見ると、つい自分や自分の周りの人々の老後に重ねてあれこれつらつら考えてしまうのだが、たとえば、もう30年以上も前にヘンリー・フォンダとキャサリン・ヘップバーンの『黄昏』を見た時、その頃は自分自身はもちろん自分の親ですらも映画のカップルよりも若くて現役だったから、別世界のことでしかなかった。

『愛・アムール』や『アンコール!!』では先に死んでいくのが妻のほうであるというのも『黄昏』とは少しニュアンスが違う。

しかし、なんというか、観客に夢を見させるような映画と違って老いや病気や衰弱の様子をリアルにクローズアップして突きつける映画を見ると気が滅入るのは避けられない。けれども、カタストロフィ映画とかホラー映画でばんばん死者を見せつけられるのと違って、平和で運よく長生きすればだれでも多かれ少なかれ老いと衰弱の姿に行き着くわけだから、めでたいのかめでたくないのかよく分からない。

死ぬことよりも老いることの方が怖いという人だっているかもしれないし、老いることよりも体が不自由になることの方を恐れる人もいるだろう。

それでもこれからこういう映画をいろいろ見て比べてみたいという「老いの好奇心」は抑えられない気がする。

もう一つ、昔、日本から出ることなく「洋画」を見ていた頃と違って、今はフランスに何十年も暮らしてあらゆる世代の人を身近に見続けているから、たとえイギリス映画でも、どの登場人物の顔にも知り合いの誰彼を思わせるものが必ずあるので、見ているとそのリアルさが半端ではない。
日本人とは限られた人としか付き合っていないし生活の基盤がないから、もしこの映画を日本でリメイクしたものがあったら、そっちの方が私にとっては距離がとりやすいだろうな、と思う。
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by mariastella | 2013-06-21 00:24 | 映画
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