L'art de croire             竹下節子ブログ

ブラジルの世界青年の日(WYD)に思う その2  ブラジルの福音派とは

テレビでは教皇の車にすがりつく若者たちのフィーバーぶりが伝えられている。

サッカーのスタジアムのような雰囲気です、とレポーターが言っている。

しかしこの教皇の警備などのためにユーロにして4000万ユーロが計上されているので失業や経済格差に苦しむ人たちは抗議のマニフェストをしていると付け加えるのも忘れない。

といっても、若者たちはこの教皇がはっきりと経済的な弱者の側に立っているのを知っているので、抗議デモをしている若者と教皇のファンはむしろ重なるのだ。批判しているのはアノニマスのようなウルトラ・リベラルなグループの方である。

しかし、フランスのメディアは、現在世界一のカトリック人口を擁するブラジルもカトリック教会は閑散としつつあり、2030年には福音派教会に信者数で抜かれてしまう、みなが福音派教会に流れていると強調する。

福音派教会のカリスマ牧師が、若者たちに「未来はどんどん良くなる」と手のひらに書いて唱えなさい、などというシーンが紹介され、若者たちが熱気を帯びてそれに従っている。

なんだか自己啓発系カルトに見える。

実際は、「福音派」とひと口に言っても、実態はさまざまで、劇的な動員力のある福音派とは、ほとんどカルトに近い。

福音とは新約聖書の福音書に基づくものだから、広い意味では福音主義とはキリスト教そのものを指す。
歴史的には、宗教改革の時代のプロテスタントや、その少し前のユマニスムの時代の福音書再発見の動きをも指している。

ヨーロッパのカトリックではラテン語を読めない一般信者は、福音プラス伝統つまり、聖人伝だの神学だの典礼だのによってのみ教会主導のキリスト教を生きていた。それがルネサンス以降に、福音書に向き合うことで、個人対神(=福音)という関係が生まれて、体制としての教会に縛られないリベラルな流れができたのだ。

ヨーロッパはほぼカトリック一色だったからエラスムスやラブレーらユマニストもカトリック内部の異端児だった。
やがて個人の信仰に基盤をおくプロテスタントの諸派がカトリック教会を離れ、福音派はプロテスタントの別名のようになった。
プロテスタントには多くの派が生まれたが、今はメソジストやバティスト、ペンタコイストなどが福音派と言われる。聖書に忠実な原理主義的な傾向も大きいので、その意味ではもはや「リベラル」とは一致せず、むしろ今となれば第二バティカン公会議以降のカトリックと比べてもずっと保守的である。

だから、

「カトリックが古臭くて保守的なので若者はリベラルな福音派に惹かれる」

というような見方は的を外れている。

ところが、第二ヴァティカン公会議で旧弊を斥けて近代化を担ったカトリック進歩主義者たちは今や平均年齢80代である。

ざっと言うと、たとえばフランスのような国では生まれながらのカトリックで自ら内部改革を推進してきた高齢世代がいて、その後はすっかり宗教離れが起きたので、若い世代でカトリックのアイデンティティを持っている人たちは別に進歩主義など標榜していない。「進歩派対保守派」のような対立は実はもう実態を伴わないといっていいだろう。

これがブラジルのような国ではどうなのかというと、日本や西欧先進国に顕著な宗教離れや個人主義はまだ見られず、ラテン風の濃い祝祭的なメンタリティを持ちながら失業率が高く貧富の差が激しい若者の不満が「宗教」的なパフォーマンスにはけ口を求めているかのように見える。

そのマーケットにつけこむ福音派カルトは、巨大ビジネスであり、彼らはキリスト教の福音主義というメソードを使いながら、若者たちに「君の未来はどんどんよくなる」という「福音」を刷りこんでいるのだ。

教皇が社会主義的改革に近い路線で弱者の救済を唱えるのに対して、福音派カルトの説く「福音」とは、ブラジルの高度成長、大量消費の夢なのである。
だから、多くの若者がそちらの方に惹かれているのだとしたら、先が心配だ。

ル・モンド紙によればブラジルで福音派に流れるのは15-19歳が顕著であるらしい。

若者にとって「繁栄」という名の福音は魅力的だ。

それは「消費」をはばむものはすべて、哲学も宗教も著作権保護も否定するウルトラ・リベラリズムと親和性がある。

何も

「カトリックが中絶や同性愛に否定的だから顧客を失いつつある」

わけではない。

前述したように、本来の「福音派」プロテスタントはカトリック以上に保守的なぐらいなのだから。(この項続く)
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by mariastella | 2013-07-25 08:05 | 宗教
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