L'art de croire             竹下節子ブログ

教皇フランシスコは「プレゼン」の天才だ

新教皇フランシスコがいくらヴァティカンの「改革」を目指したとしても、そう簡単には行かない「伝統の壁」がそびえていると思っていたが、

4/13  にホンジュラスのマラディアガ枢機卿を中心にした教皇庁改革のための評議会を設置、基本法であるPastor Bonus の改革も委託した。

6/23  にはIOR(ヴァティカン銀行)の腐敗などを終わらせるための評議会を設置した。

7/19  にはヴァティカン初の会計監査委員会を設置することを発表し、これまでの「イタリア式」の不透明なやり方を簡素化、合理化すると明らかにした。

次々と出されたこの三つの決定だけでもなかなかすごいが、宿舎で挙げる毎日のミサの中で少しずつ、「外見だけの信者」だの「酢漬けピーマン頭の司祭」だのという厳しい言葉を小出しにしておいて、ついに、世界青年の日大会で何百万人という若者の前で、

カトリック教会はこれまで世界を自分の基準にのみ照らして裁くただの監視行政機関になってしまった

と批判した。

そんなカトリック教会を不毛だとして多くの人が去っていったのは教会全体の責任であり、それらの人々のとった道と再び交わるように、信者も聖職者も教会から外へ出ていかなくてはならない、という。

高位聖職者にありがちな「殿様メンタリティ」を指摘するなど、これまでのタブーを破るような発言もある。

こういう「過激」な教皇を選んでしまった枢機卿たちは、コンクラーベでよくよく聖霊に導かれたのだろう(魔が差した、と思っている人もいるかもしれないが)。

リオへの往復の機内でも、ジャーナリストに同性愛者についての意見をたずねられ、自分にはそんなことをどうこういう権威などない、みな兄弟だ、という趣旨の答えをし、女性の役割の重要性もコメントしている。

だからと言って教皇はいわゆる「革新」ではない。

教皇になってから司祭の結婚を許可しろとか修道女の叙階を認めろとか山のような手紙を受け取ったが、そんなことは本質的な問題ではない、と言い切る。

今や時代に合わない教会のストラクチュアを改革することは必要だが、それはより人間的な共感の精神、福音に拠るものでなくてはならない。現代社会に合わせて宗教をイデオロギー化することでもないし、「主との出会い」という超越を捨てた「自己啓発」のツールにするのでもない。

なるほど。

実はこういうことは、ベネディクト16世も言っていた。ヨハネ=パウロ2世も言っていた。

でも、新教皇は同じことを、自分でやって見せながら言う。

リオに往復した飛行機に乗り込むフランシスコは左手に膨れた黒い書類カバンをしっかりつかんでいた。

一国の「元首」の公式旅行では絶対に見られない図だ。

そのことをジャーナリストに指摘されて

「私はいつも旅行の時に自分の鞄を持っていた。普通です。普通じゃなきゃだめですよ!」

と答えた。

こういうディティールに至るまで、言っていることとやっていることがマッチしていて、結果的になかなかの効果をあげている。いってみれば新教皇は「プレゼン」の天才なのだ。

そしてその「天才」を発揮する力がどこから来ているのかと問われれば迷わず「イエス・キリストから来ている」と答えるのだろう。

「心の中でキリストを主とあがめなさい。あなたがたの抱いている希望について説明を要求する人には、いつでも弁明できるように備えていなさい。」

とは新約聖書の『ペトロの手紙1』(3-15)にある言葉だ。

深刻な顔で「罪を悔い改めよ」とか「地獄に堕ちる」などと叫ぶような「クリスチャン」に「希望の秘訣」を問う人なんていないだろう。

フランシスコ教皇の裏表のない「にこにこ」顔とエネルギーを見ると、確かにその秘訣を問いたくなる。

その答えももちろん「イエス・キリストとの出会いと一致」だ、ということになるはずだ。

悟りとか健康意識とか危機管理とかさまざまな戦略の成果ではないのだ

信仰というのは自分を磨いたり高めたりパワーアップすることではなくて「自分の外」に出ることだと言う。 

教皇は、やることが多すぎてこの夏は歴代教皇の慣習である夏の別荘でのバカンスもとらずにヴァティカンに残るそうだ。

そのパワーがいつまでもつのだろうか、と心配することなど、きっと無意味なのだろう。
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by mariastella | 2013-08-02 02:18 | 宗教
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