L'art de croire             竹下節子ブログ

音楽の守護聖女

前回の記事でアルビのサント・セシル大聖堂について触れた。

アルビは、私がもう四半世紀つきあって来て音楽活動も共にしたルイ・ロートレックの故郷でもある。

そのアルビにそびえる13世紀の傑作建築がサント・セシルという音楽の守護聖女に奉献されたものだというのも感慨深い。

フス派が異端として蹴散らされたプラハで、生き残った貴族やブルジョワたちがハプスブルクのカトリックに忠誠を示すためにやたら立派な教会を建てたのと同じで、カタリ派十字軍によって殲滅させられたアルビでも、その後で必要以上に立派なカトリック大聖堂が建てられたのかもしれない。

建物の立派さのうちに内面の抵抗やわだかまりがかえって透けて見えるということもある。

アルビのセント・セシル大聖堂はなんとなくアッシジの大聖堂に似ている。

煉瓦造りの教会としては世界最大(113mx35m)のものだ。

前の記事でふれたように15世紀フランドル派風の最後の審判図が有名だが、中央の栄光のイエスは17世紀に失われた。

そして、アルビの大聖堂にはもちろん聖女セシルの聖遺物があるわけだが、その前にはセシルの等身大の像が置かれている。

これはローマのサンタ・チェチィリアの大聖堂にあるステファノ・マデルノ作の有名な像を摸刻したものと言われる。

聖女セシル(チェチィーリア、セシリア)とは3世紀初めごろのローマの貴族の殉教処女とされている。

キリスト教の神に処女奉献の誓いを立てていたので結婚を強制されたが夫や周囲の人々まで改宗させてしまった。

しかしキリスト教迫害にあって打ち首に処されることになり、3度首を切りつけられたところで放置された。

それから絶命するまで3日間、神をたたえる歌をずっと歌い続けていた、または殉教中ずっと天使の奏でる音楽を聞いていたなどの伝説があるので、音楽、楽器製作者の守護聖女となっているのだ。

ヘンデルやパーセルやグノーらがこの聖女に捧げた曲も有名だ。

音楽家で娘にこの聖女の名をつける人は今でも少なくない。

もともと人気聖女で、最初に典礼で言及された記録は496年だという。

その棺はカタコンブで821年に発見され、Trastevereにバジリカ聖堂が建てられた。

1599年の発掘調査で、遺体が掘り返された時、最初の姿勢のままで横たわっていたという。そこで俄然ブームとなり、最後の姿を再現したのがマデルノだった。

手首は結ばれているようにも見えるが指を3本(右手の人差し指と中指、左手の人差し指)のばしている。首の3つの傷や3日間の歌と共に三位一体の神を現している。

ローマの像
は1600年作のもので白大理石。顔は見えず、首の傷は大きい。

アルビのものは色彩が施されていて横顔がはっきり見える。

歌っているようには見えないから絶命した後なのだろうが安らかな顔つきである。

パリにもめずらしいセント・セシル教会がある。

9区にある13世紀風のネオゴシック教会で、周りの建物となじんだ小ぶりな建物なので気をつけないと見落としてしまう。

ナポレオン三世の妻ウージェニーにちなんで聖ウジェヌ=聖女セシル教会として1855年に完成したものだ。

聖ウジェーヌ(Saint-Eugène)(オイゲン、ユージン…)も聖女セシルと同じ頃のローマの聖人で聖ドニと共にスペインを宣教した後フランスに来て殉教した。

遺体はパリの北郊外の湯治場アンギャンの湖に捨てられた後でサン・ドニの修道院に移され、14世紀にはさらにトレドに移された。

9区の教会の何がユニークかというと、まず、建材も内装もすべて金属製である初の教会というところだ。

鉄と鋳鉄の丈夫な構造のおかげでネオ・ゴシック様式なのにコンパクトに仕上がった。

内部はなかなか色鮮やかに装飾されている。

SF小説の先駆者ジュール・ヴェルヌがこの教会に惚れ込んで結婚式を挙げたことでも有名だ。

もう一つの珍しさは、1998年からはひとりの司祭がフランス語とラテン語でミサを司式するダブル典礼があるというところだ。1985年にJP2から正式の許可を受けている。


日曜は9h45からフランス語ミサ、11hからラテン語ミサで、週日も交替であり、夕方のラテン語ミサもある。

ブルジョワ地区でもないし、第二ヴァティカン公会議に同意せずローマ教会から離反した教条主義派の牙城でもない。

普通の信者が金属製の不思議な教会でラテン語ミサを体験できる不思議な場所である。

聖女セシルの祝日(11/22)のシーズンにはもちろんコンサートもやっている。

自分で楽器を弾きたい場所ではない。
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by mariastella | 2013-08-04 02:46 | 宗教
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