L'art de croire             竹下節子ブログ

マグダラのマリア---信仰が聖地を創る

最近の記事で聖女チェチィーリァのことを少し書いた。

別のところでコンクにある聖女フォワの巡礼地についても書いた。

有名聖女にちなんだ有名巡礼地でも、そのもととなる殉教譚などは古くて伝説としか思えないものも多い。
十字軍以降の「聖遺骨」招致ブームが、歴史的記録のない無数の殉教聖者崇敬に火をつけたのだろう。

そんな古い聖女の中でも、聖母マリアに匹敵するくらいに福音書の中で存在感を放つマグダラのマリアの聖地や聖遺骨などは、信憑性はかなり薄いと思うのだが、早くから強力な聖地が根付いていた。

「マグダラのマリア」は聖書の中の何人かのマリアのエピソードが複合して形成されたキャラクターだと言われているのだが、とりあえず、中世のヨーロッパのイメージでは、

「遊び女」で罪の女だったマリアがイエスによって赦されて改心し、復活にも立ち会い、その後パレスティナを追われるが南仏の海岸に漂着してそのまま隠遁の修道生活を送った

ということになる。

裸で洞窟で暮らし、水も食物も口にせず、毎日天使に寄って天に上げられ音楽を聴き、また洞窟に返されたと9世紀ごろの聖人伝がすでに語っている。

重要な出来事のキイパーソンが歴史から姿を消した後、実は遠くの国に漂着して長い余生を送ったという「貴種流離譚」は世界各地にあるので、その一つということだ。

ヨーロッパの歴史の中で力をつけていった頃のフランスは王権神授説も唱えたし、十字軍も組織して「お宝」をたくさん持ち帰った。

しかし、強引にフランスにもちかえったお宝よりも、生身のマグダラのマリアが自分からフランスの地に来て生を終えたという方がインパクトははるかに大きい。

この伝説があるからこそ、ダヴィンチ・コードで有名になったような、マグダラのマリアが実はイエスの子供を宿していていっしょにフランスに来てフランス王家の先祖となったなどというたぐいのトンデモ裏歴史も形成されるのだ。

でも、洞窟に掘られた聖堂や、その地下に祀られているマグダラのマリアの頭蓋骨や髪の毛などはけっこう何度も調査の対象になって、148cmくらいの地中海タイプの50歳くらいの女性のものではあるらしいと言われている。

でも、そのような伝説やらモノの真偽や真贋を超えて、このサント・ボームの聖地を聖地とならしめているのは、そこを訪れた錚々たる人々の足跡そのものかもしれない。

聖ルイ王、フランソワ一世、カトリーヌ・ド・メディシス、ルイ13世、母アンヌ・ド―トリッシュに連れられた若き日のルイ14世らが「王」の道と呼ばれる巡礼路を歩いたのはもちろんだが、シエナの聖女カタリナ、聖女ジャンヌ・ド・シャンタル、スウェーデンの聖女ブリギッド、聖ヴァンサン・ド・ポール、漂泊の聖ブノワ・ラーブルなどが巡礼し、2005年に列福された砂漠の修道士シャルル・ド・フーコーの奉献した謝辞も残っている。

サント・ボームに行けば、マグダラのマリアの聖遺骨や伝説の真偽に関わらず、歴史上の王や聖人たちの残した信仰の余熱みたいなものを感じることができる。

聖地をつくり、巡礼地をつくるのは、そこに祀られているモノやそこで起こる奇跡の評判なのではなくて、そこを訪れる人たちの思いなのだのだろう。
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by mariastella | 2013-08-07 00:39 | 宗教
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