L'art de croire             竹下節子ブログ

ロカマドゥールの黒い聖母と聖アマドゥールの聖遺物

先日のロカマドゥールの話を少し補足。

ロカマドゥールという名はRocamadourなので「Amadourのroc=岩」でないかと言われている。

イエスが一番弟子シモン・バルヨナに「岩=石」(ペトロ)という名を与えて「あなたはペトロ。わたしはこの岩の上にわたしの教会を建てる(マタイ16-18)」(ローマ法王はこのペトロの継承者とされている)と言ったせいか、キリスト教の教会や修道院は険しい岩場に建てられることも珍しくないが、ロカマドゥールもそのような崖の上にある。

1166年に聖母のチャペルのそばに葬られたいと言い残したある信者の墓を掘っている時に、修道士たちはそこにすでにあった古い墓を発見した。そこには腐敗していない遺体が残っていた。当時の感覚では腐敗を免れることもは聖性の徴だとされていたので、修道士たちはその遺体が4世紀の隠遁修道士アマドゥールのものであると確定した。

そのアマドゥールはさらに福音書に出てくるエリコの徴税人ザアカイ(ルカ19)とも習合されていった。

イエスに出会って回心したザアカイは、マグダラのマリアや聖女ヴェロニカなどと共に地中海を渡ってフランスに流れ着いたことになっていたからだ。

宗教戦争の時代1562年に、ユグノーがこの聖地を襲い、アマドゥールの遺体を燃やした。信者たちはその灰を集めて1970年まで崇敬していたが、今は聖地の宝物館に収納されている。

概して、由来が検証されない過去の聖人たちの崇敬は、今は公式の聖人典礼からは外されている。

けれども、ある意味では同じように起源のはっきりしない「黒い聖母」の方は息が長い。

ロカマドゥールの聖母はカタルーニャの守護聖女であるモンセラットの黒い聖母「ラ・モレネータ」

と同時代の作品だが、モンセラットの聖母がイエスを両膝の間にどかんと入れているのと違って、ロカマドゥールの聖母が体を微妙にくねらせているのを見ると、ある種の弥勒菩薩半跏像を連想してしまう。

アマドゥールの遺体の「御開帳」を始めた12世紀半ばにそれを補強するようにこの聖母像を設置したようで、1172年には早速聖母の取りなしによる124件の奇跡譚がベネディクト回修道士によって書かれ、巡礼者がどっと増えて毎日のように奇跡の起こるパワースポットになったらしい。

聖遺物の方は巡礼自体の正当化に必要なのであって、ご利益のメインは当初から聖母にあったらしいのもおもしろい。

当時こういう大巡礼地を作るにはマーケティング戦略のようなものがあるらしく、聖遺物や聖像と奇跡譚をセットにして宣伝する才に長けた人が出てくればブレイクすることがあったらしい。
もちろん険しい崖上とか洞窟とか海を見下ろすとかなどのロケーションも重要なファクターだ。

ロカマドゥールの聖母は海難を救うとか子宝に恵まれるとかいうご利益でも有名だ。

「黒い聖母」ということもなんとなくミステリアスな気分をそそったのだろうが、単に黒っぽい木材や黒い石で造られた聖母子像が時には白く塗られたことがあるほど危険なものだと感じるのは日本人にはよく分からない。

仏像が黒くても金色でもそこから特に肌の色や人種を特定しようとは誰も思わないだろう。

もっともお釈迦様はインド人なのだから肌の色が黒くても不思議ではないし、聖母マリアもパレスティナ人なのだから多少浅黒くても不思議はないのだが、ヨーロッパの主流秩序に組み込まれていた時代には何かと不都合なことがあったのかもしれない。
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by mariastella | 2013-08-11 23:57 | 宗教
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