L'art de croire             竹下節子ブログ

リー・ダニエルズの『ザ・バトラー』を観た

Lee Daniels' The Butler (2013)

ホワイトハウスで34年間も働いて8人の大統領に仕えた執事ユージーン・アレンをモデルにフォレスト・ウィテカーが主演したリー・ダニエルズ監督作品だ。

黒人の公民権運動に焦点をあてながら、ホワイトハウスでの仕事に献身して二人の息子の世話をできなかったり、過激な運動に関わって逮捕歴を重ねる長男と絶縁したり、次男をベトナム戦争で失ったりという家庭のドラマを、社会や政治のドラマと織り合わせて、涙を誘う作りになっている。

フォレスト・ウィテカーがエレガントで情のあるいいキャラだし、いろいろあっても彼を支えて尊敬する妻もいいし、すべてがあまりにもよく出来過ぎている。

こう簡単に泣かされるとかえって疑念がわいてくる。

民主党側へのかすかな肩入れぶりが気になるとか、オバマの勝利がハッピーエンドになっていて本当にいいのか、とも思うし、結局、勘当していた長男が最後は歴史のヒーローになって政治家としても活躍、つまり出世して、孫娘もできて、「君に似ているよ」と言われた妻が、「そう言われればかわいいかも…」のようなほのぼのした感じがハッピーエンドのシンボルというのも月並みだと思う。
結局、仕事があって、夫婦仲良く長生きして、子供が出世して孫もできるというのが、すべての人に平等に保証されなければならない「幸せの権利」の「幸せ」の中身なのだろうか、と抵抗を感じてしまうのだ。

最後にヒーローがオバマに会いに訪れる時に迎えてくれるホワイトハウスの執事がやはり黒人というのもなんだか気になる。
もちろん初の黒人大統領夫妻」に仕えるのが全員白人のスタッフになっていたらそれはそれで不自然だろうけれど。

考えたら、私の世代はアイゼンハワーやらケネディのこともリアルタイムで覚えていて、キング牧師やマルコムXのことも覚えているし、KKKのことも知っていたし、ベトナム戦争はもちろん切実だったけれど、日本に住んでいてアメリカの人種差別の実態を実感としては考えたことがなかったことにあらためて驚く。

この映画でも黒人たちに揶揄されているのだけれど、アメリカの黒人というとまさに「シドニー・ポワティエ」というイメージだったのだ。

オバマ大統領の父はケニア人であり、アメリカの開拓時代の奴隷の子孫ではない。そして今のアフリカからヨーロッパに向けて必死の不法侵入を試みている黒人たちが命を落としている悲劇は現在進行形だ。人の命の重さに格差があることは、形が変わっても今でも続いている。

もう10年以上も前になるが、文芸春秋のコラムで、ハワイのヒルトン・ワイコロア・ビレッジというリゾートで感じた違和感について書いたことがある。
ホノルルのホテルなどと違ってそこでは毎年訪れているらしい、いかにもWASP風の常連家族客がたくさんいて、黒人の姿が見当たらなかった。

いわゆるハワイの現地の人もいない。

そしてスタッフもすべて白人だったのだ。

表に見える非白人従業員は日本レストランの着物姿の日本人だけだった
客には日本人がいるのだが少数派で、ツアーのバスは地下に着き、日本語を話せるハワイ人のガイドがつく観光バスも地下の発着だった。

野外ステージでフラダンスなどを見ながら夕食をとるオプションの日は、日本人はまとめて同じテーブルにつかされ、夕食の前には白人の司会者がステージで堂々と「食前の祈り」を唱え始めるのだった。

これだけ白人ばかりの世界だと、差別の対象がそもそもいないのだから、本国では異常にうるさい「政治的公正」を気にせずに、さぞやのびのびとバカンスを楽しめるのだろう。みながゆったりリラックスしていた。ゲーテッド・コミュニティかエリジウムみたいだ。プールも24時間あいている。

日本人は「いないこと」にしているか見て見ぬふりをされていた。

そこでしばらく滞在してからオアフ島に戻ってワイキキのヒルトンでチェックインしていたら、黒人もアラブ人もヒスパニックもアジア人もいかにも雑多な観光客がいて、その多様性になんだかほっとしたことを覚えている。

フランスにはいわゆるメトロポリタン、本国には黒人奴隷はいなかったけれど、今も海外県や旧植民地国からやってくる黒人はたくさんいる。「黒人差別」がアメリカのようなトラウマになっていないのは「アラブ系のイスラム教徒」との軋轢の方が大きくとりあげられるからだ。アフリカ人でもカトリックの多いコンゴ移民などとムスリムの多い国の黒人移民は心理的に違う扱いをされている。でも、アメリカの黒人のほとんどは「主人」であった白人たちと同じ「キリスト教徒」だったのだから、差別と宗教は関係ないということがよく分かる。

人種差別ほど本音と建前が巧妙に操作されているテーマは少ないかもしれない。

自分自身を振り返ってもそう思わざるを得ない。
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by mariastella | 2013-10-11 23:31 | 映画
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