L'art de croire             竹下節子ブログ

ヴァティカンの標語は「アーメン」 ? がんばれ、ムヒカとフランシスコ

近代国家の政教分離だけではなく、新自由主義の市場経済、利益史上主義での環境破壊など、経済や資源開発の問題はすでにグローバル化している。

一国の政治の手を離れてしまっているような事態になって久しい。

冷戦下の緊張の元では「政治」がけっこうな力を託されていたのだけれど、東西のイデオロギーが「経済」に圧倒されてからは、世界はもう境を超えたマルチナショナル企業の主導で動いているかのようだ。

そんな状況で、今のローマ教皇フランシスコは、環境(破壊)問題や経済(格差)問題は、「政治」問題であって、政治による介入やコントロールなしには歯止めがきかない、と声を高くして言っている。

ヨーロッパ系カトリックには、保守的ブルジョワ層が根強くて

「宗教は子女の教育のためであり、政治には口をすべきでない」

というイメージが大きい。

プロテスタント系の保守階層でも同じで、宗教は個人の良心の拠り所であって政治経済に影響を与えてはならない、というのが一般的だ。

そしてそこには、

「ほら、ぼくらの先祖も過去に宗教の名によって蛮行を重ねてきたことは認めるけどさ、今は、民主主義で自由の世界、宗教抜きで世界に君臨できるもんね。それに比べて、イスラム教は遅れてるよね、いまだに宗教で政治を縛ろうとしていて、聖戦というテロをしかけてきたり、女性差別したり、布教エネルギー満々の原理主義だし、ああ野蛮でうっとうしい」

という感じの「蒙昧宗教卒業」の自負だか何だかが見え隠れする。

もちろん自滅した「共産主義」のようなイデオロギー闘争ももう卒業してクールに利益率を計算できる「ボクたち」、がますます経済力を蓄えてさまざまな分野を支配している。

そんな状況下で、世界最小の領土しかない国の元首であるローマ教皇が

「環境保護と経済格差の解消は政治の仕事である」

とはっきり訴えている。

環境団体や人道支援団体や宗教団体にまかせることではない。

政治が介入して根本の構造を変えない限り問題は解決しない。

「あら、政治なんてとんでもない、教会の役目は迷える信者の魂を救うことですわよ」というブルジョワ信者が目をひそめそうだ。

アルゼンチンの最貧困地域を知っている教皇は、大司教館に住まずに質素なアパートで自炊していた。

彼に匹敵する「原則を貫く元首」といえば、ウルグアイのホセ・ムヒカ大統領しか知らない。

教皇より少し年上の78歳。

2009年から現職だけれど、もう20年も自宅である農家に暮らしていて官邸には住まない。

上院議員でもあるファーストレディが食事の支度をして、二人ともいつもジャージの上下の普通の庶民。
大統領の給料のうちから1000ユーロだけ受け取って残りは国に還元。
市場開放型社会主義で、失業率は6%以下だし、中南米で最も社会的に安定している資源や食物の輸出国だ。

ラテンアメリカだから伝統的にはカトリック国だけれど、大統領はきっちりと「政教分離」をしていて「神」の名を出さない。

社会民主主義の今のフランス政府と似ている。同性婚を認める法を通過させたのも同じだ。

このムヒカ大統領が、やはり世界に向けて、弱肉強食の競争原理が環境を破壊して格差を生んでいるのだから、「政治」がそこに介入すべきだと言っている。

2012年のリオ会議での演説は有名だ。

経済や環境の危機は政治の危機である。

こういう正論を世界に向けて堂々と語る国家元首はムヒカ大統領とフランシスコ教皇くらいかもしれない。

二人の共通点は「言行一致」でもある。

「言行一致」の人が言う正論には力がある。

キリスト教というのは、社会政策の指針で言うと、本来は、「弱者に仕えよ、旅人をもてなせ」に尽きるのだから、そこに忠実である限り「極左」みたいなものである。エスタブリッシュメントにとっては迷惑過ぎる宗教なのだ。

で、私が気にいっているのは、ウルグアイの標語で、

「自由か死か」

というのだ。

過激で潔い。

ウルグアイがブラジルから独立した時の戦いでの言葉で、アメリカの独立戦争の時にも言われた言葉だ。

フランスは「自由・平等・兄弟愛」。

最後の「兄弟愛」は「自由・平等」よりも後に認知された。

私の子供の頃は「自由・平等・博愛」と習って、「博愛」というのは理想主義的だけれど理念としてはフランスの普遍主義に似合っている。

「兄弟愛」は「友愛」とも訳されるが、元は明らかに、フリー・メイスンの「兄弟」の連帯を現している。

今なら「自由・平等・連帯」にすればいいのにと思う。兄弟愛ではなんだか血縁も連想させて、移民の統合政策へと向かう力にもなれない。

標語を決めて紋章やら通貨やらに刻んでしまってしまってから、最初の文脈とずれてきて、今や

「ちょっとやばいんじゃないの」

とみんながひそかに思っていると想像するのは、他の国の標語にもある。

リチャード獅子心王が戦場で口走ったとかで「Dieu et mon droit」(神と私の権利)というイギリスの標語などは、あれほど仲の悪いフランスの言葉であること、ノルマン人に征服されて宮廷がフランス語だったことも連想させるし、戦争に「神」を引き合いに出すところも今や苦しい。
まあイギリスは今でも国王が国教会の首長であり「神」を平気で口に出している国ではあるけれど。

アメリカも、有名なのは「In God We Trust」(我ら神を信ず)とベタなモットーで、見なかったことにしてあげたい気になるくらいだ。

独立の際に決められた古いほうのモットーである「多数からひとつへ」の方はまだましだが、三銃士のセリフみたいだし、ラテン語ってところも時代や文化のバイアスがかかっていそうだ。

(ついでなのでここでネットで見てみたら、ドイツは「統一と正義と自由」だそうでまあ無難。イタリアは標語なしで、スペインはラテン語で「Plus Ultra」(更なる前進)、これも「カトリック宣教師が海を越えて植民地を増やしに行ったんですか」と思われそうだ。まあ、植民地国あがりのカナダもラテン語で「A Mari Usque Ad Mare(海から海へ)」なんで、あまり気にしないのかもしれない。
ちなみにロシアや中国は標語なしで台湾は「民族、民權、民生」と微妙すぎる。)

日本の標語はもちろん、なし、だ。

日本国と日本国民統合の「象徴」が天皇とされているが、欧米の「神」と同じで歴史的にいろいろなニュアンスが加わっているのでこれもあまり前面に出ると議論の対象になったりする。

で、 教皇が元首であるヴァティカン市国のモットーはというと、これも、ない。

一国が標語として掲げる言葉としたら、ヴァティカンには何がぴったりなのかなあと考えれば、強いていえば、「アーメン」かなあ。

アーメンとは神への合意のことば、「み旨のままに」、「かく、あれかし、」「let it be」である。

聖職者から言われたことに対して無批判に「へへー、さようでございます」のように受け入れるとか、「これからいうことはほんとのほんとだからね」というニュアンスで使われたり訳されたりしてきた歴史もあるけれど、本来は、この世の権威ではなくて超越神に対しての「謙虚さ」を現している。

神ならぬ人間のこの謙虚さがちゃんと機能すれば、拝金主義に陥ったり地上の権力に固執したり、「自分ち主義」、共同体主義、排他主義、覇権主義に向かったりするのを避けることができそうなのだが。

日本でキリスト教のことを「あのアーメンが」などということがあるが、なかなか本質を見抜いているのかもしれない。
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by mariastella | 2013-10-16 23:32 | 雑感
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